武闘派王子〝イネア〟




(高圧縮したオレの熱弾を容易く…!予想はしてたがハウィ国王と同じ〝石属性〟かッ!)




 突如として現れた二つの石塔によっていとも容易く目の前で弾け飛んだ自身の技に、ゼーベックは予想通りと笑みを浮かべた。


 寒波、熱波は名前こそ〝波〟と付いているが実際は熱の凝縮された塊を打ち出す技。


 その威力は予選で見せた通り、身体系の能力者すら容易く吹き飛ばす程。


 放出系だが射程の短いゼーベックが編み出した中距離でも近距離となんら変わらない威力を生み出す秘技であった。


 だが、それは虚しくもイネアの生み出した〝二つの石塔〟に阻まれていた。




「──悪いが…部下のかたきを取らせてもらおう」




 がき、と石塔が崩れ、やがてそれがイネアの周りに──無数の石の塊となって形を成した。


 もちろんただの無作為に形作られた石の塊ではない、歪みなく多角形に整えられたそれは正に浮かぶ凶器。


 今まさにそれらがゼーベックの方へ向けられた。




(宙に石が…!くそッ…オレと同じ〝放出系〟かよ!!)




穿うがて」




 イネアの言葉を合図に、石の塊が石弾となってゼーベックへと発射された。


 これは不味いと付近の熱気を操りながら避けるが石弾は構わずゼーベックへ当らんと迫り来る。




「…ッチ!変わらねぇか!!」




「イネア選手が作り出した石柱が石弾へと変化してゼーベック選手へと遅い来ルゥウウウ!!シュミィ選手の時のような不思議な力は働いていない模様!スレスレでかわしているゾォー!!」




「無駄だよ。石は矢と違って形も質量も違う。熱による大気を利用した壁なぞ石には効かない、むしろ〝それ〟によって強化されるのは…わたしの方だ!」




「ッ!?」




 イネアが石弾を撃つ際に差し出していた掌を天に向け、虚空を握り潰す。


 それと共に変化するのはもちろんゼーベックへと向かう石弾。かき──と規則正しく割れたその鋭利的な石弾がゼーベックの熱壁ともいえよう防御を貫いた。




「ッ!おおおおおおおおおッ!!」




 ナイフを両手にして迎撃をするゼーベックだがその幾つかは防ぎ切れずに己が身体に鋭利な傷を残す。自身の能力による火傷の痛みも加えて。




「…ッ…へぇッ…へぇッ…!参ったな…こりゃ…ッ…遠隔操作も会得してやがんのか…ッ…!」




「流石だな。咄嗟に避ける事からナイフで石弾の方向を変える事に転じたか」




「──ッ!ゼーベック選手、途中で炸裂したイネア選手の無数の石弾を凌イダー!!しかしながらその幾つかは腕や足に突き刺さってイルー!周辺を抉る程の石弾に血が滴り落ちておりマスーー!」




 肩で息をきながら、ゼーベックはイネアの実力に吐き捨てるように零した。


 放出系の上級技術である能力の遠隔操作。


 繊細な魔力の操作を必要とし、少し特殊な能力を持つゼーベックもそこにはまだ辿り着いて居なかった。


 何故ならば能力を暴走させないように操作するので手一杯だったゼーベックにはそこまで行く時間と〝師〟が居なかったからだ。




(…クソ、確かに今度はオレの方が相性わりぃな…笑っちまうぜ。だがよぅ…相性ぐれぇで負け認めてたまるかよ……!)




──ッ!




「ッ?」




 かふぅ、と息を一度吐き切っては呼吸を整えたゼーベックの姿が足元のステージを僅かに砕く音と共にブレた。


 瞬時にイネアへと距離を詰める、戦闘移動方法──〝瞬動しゅんどう〟。


 その光景に目を見開いたイネアに一撃を与えんとゼーベックは両手のナイフを握り締めた。




接近戦闘インファイトならオレの方に武がある!〝遠距離じゃあ勝てねぇ〟だろうがここならオレのなわばりテリトリーだ!!)




「ハァアアアアアア!!」




 放出系でありながら、その特殊な能力故にゼーベックは接近戦で必須となる身体強化が得意になった。


 そしてその能力を活かせるように武器を改造し、能力を灯せるようにした。それによって近距離から中距離まで有効射程を伸ばす事に成功──近距離ならば他の放出系の能力者だろうと負けない自信があった。




「瞬動も使える技量は見事だ。賞賛しよう」




「──ッ!?ッチィ!!」




 いつ間にかイネアの手に握られていた短い棒、バトルスティックとでもいうような物にゼーベックの攻撃は防がれた。


 ならばとゼーベックはナイフによる連続の斬りつけを仕掛けるが、それらは武器の衝突による終戦の調べを奏でた。




(おいおい…嘘だろ…?…技術だけじゃなく実力もかよ…!)




「一つ一つの一撃が重い、そしてこの熱を操る能力…磨けば能力の高み、【支配者】に届くだろう。だが──」




 的確にイネアの急所を狙った筈のその数多の旋律は指揮棒に従うようにいなされ、ナイフを振り切ったゼーベックの右脇腹の隙を広げられた。


 マズイ、と思うゼーベックはその隙を埋めるべく、折り畳んだ肘の一撃を狙う。


 だがその瞬間、ゼーベックの目の前に映ったのは──肘を下から掻い潜るようなイネアの持つ棒の先端であった。




「──近距離が得意なのはわたしもだ」




「ッが──!!」




 刹那、眉間と腹部の衝撃にゼーベックが苦悶くもんの表情に変わり、肺の空気を絞り出されるが如く息を吐かされる。


 棒による刺突、そして左足の足刀。完全なカウンターがゼーベックの意識を一瞬断ち切り、飛ばされた。




「すっ、凄まじいカウンターダァアア!!ゼーベック選手、イネア選手の棒術と体術に吹き飛ばされタァ!まともに当たったようですがここからどう──あっ」




 途端、実況のピピが言葉を止めた。いや、止めざるを得ないモノがピピには見えたのだ。


 ずらりと、ゼーベックを取り囲むように宙に並べられた──石の矢を。




(ッ、いつの間に……いや、〝ステージを使った〟のか…!)




「──続けるか?」




「…ッぶふ…げほッ!負けだよ…!完敗だ!それにこんな〝絶望的な状況〟で負けを認めない程バカじゃねぇしな」




 ぐい、と口元を手で拭いながらゼーベックの自身の周り一面に展開されている〝石の矢〟を見ては諦めたように首を振った。


 ゼーベックを狙う際に破壊していた〝ステージ〟、それらを使い、吹き飛ばした後の詰めとしてイネアは石の矢という包囲を作り上げたのだ。


 縦も、横も、後ろも。等間隔で均一に宙に〝配置〟したイネアは僅かに微笑む。




「良いのか?そちらも後が無くなるぞ」




「はっ、その割りには嬉しそうじゃねぇの王子様よ。負けねぇさ、〝アイツ〟ならよ。せーぜー度肝を抜かしやがれ。…おら審判、こっちの負けだぁ」




 負けだと言うのにさっぱりとした顔をしながら、ひらひらと審判に手を振った。審判の声に続いて実況の声が響き渡る。




「勝者!イネア!」




「けっ、決ッ着ーっ!!イネア選手!ゼーベック選手に完全勝利デース!!!」







「『負けねぇさ、〝アイツ〟ならよ。せーぜー度肝を抜かしやがれ』」




「ッく…!」




「あはっ、あはっはっ!そっくりだよカナタ!」




「…オメェらちょっとは労いの言葉をくれよオイ…!」




────────────

── 一方観客席のシラタマとルギくん──



ルギ


「す、すげー…ゼーベック兄ちゃんが…あんなに簡単に…」




ラン


「イネア様の戦いは初めて見ましたが……凄いですね、流石武闘派と言われているだけあります」




シラタマ


「…にゅ?」




ノン


「ん?あーちょっとメッセージ来ててねシラタマちゃん。気にしないで良いよー」

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