白い生き物

数ヶ月ぶりに有休を取ったら台風来てた←

────────────




「くー!」




 真っ白な、ふわふわとした生き物が小さな悲鳴を挙げた。


 涙ながらに寄り添うその側には、徐々に冷たくなっていく、血にまみれてす肉親二つの身体。


 キラキラとしていたかつての銀色の甲殻は、至る所が切り裂かれ、、削られ、おのが鮮血により鈍い輝きを発し、身体は無惨な姿へと変わっていた。


 全ては──愛する我が子を守る為に。




─────ッッ!!




 おろし金のような身体をした、凶悪な姿の魔物は金切声のような、咆哮ほうこうを挙げた。


 咆哮の勢いで飛ぶはその親の肉から出た赤い液体。


 全身から立ち上がる黒いもやはまるであざけりのように揺らいだ。




 次はお前の番だ──とでも言うように。




「……くー!」




 白い生き物は吠えた。


 小さな身体を戦慄わななかせ、手足は震えようとも。


 逃げようが無いのは体格からも分かっている。だが──〝他とは違う見た目〟の自分を愛してくれた親に恥じぬ死に方を選んだ。


 せめて──最後の時ぐらいは前を向いて──!




─────ッッッアア!!





 魔物がうなりを挙げて白い生き物へ駆け出した。


 おろし金のような装甲の切先はその獲物目掛け、赤く染まった凶悪な輝きを発す。


 絶対絶命。はたから見ても決着は明らか、白い生き物はきゅ、と強く目を閉じた。


 だが───




「…くー?」




 その時はおとずれなかった。痛みや衝撃の代わりに聞こえたのは鈍い……〝肉〟に当たるような音と、己の前方から感じる陽だまりのような温かさ。


 静かに開けた目線の先、白い生き物は驚いた。


 一面の……巨大な、〝肌色の壁〟に。




「間一髪だったな。勇敢なちっこいの。後は俺に任せろ」




 壁の主であろう、優しげな声が聞こえた。







 身をかがめ、勢いを殺してそのおろし金のような魔物を左腕で止める。


 身体強化した今の俺の肉体なら、この程度なら傷すら出来ない。




「シラタマッ!コイツを頼む!!ルギくんも一緒に離れてろッ!!」




「ふにゅっ!」




 後ろ手で庇った、シラタマに似たような、甲殻の代わりにふわふわの毛を生やした白い生き物を本人に任せ、叫ぶ。


 こうしている間にも魔物〝フライシュラスプ〟はその四肢を前へ、前へと押してくるように俺の左手に圧力を掛けてくる。


 ケスルタの機能の一つである音波探知機ソナーで周囲を探った際にコイツを見つけたが……酷い有り様だった。


 あの白い生き物の親であろうアルミマジロの亡きがらは勿論の事、周囲のあちこちにも様々な動物の肉片やらが。


 恐らく血の匂いに誘われて猛獣…あるいは別の魔物が寄ってくるだろう。


 生きる為に殺すのでは無く──まるで……さ晴らしのように。なるほど…こりゃあ負の連鎖、もとい魔物が消える事は無い訳だ。




────ッアアア!!!




「…イラついてるのか?残念だな。獲物が居なくなって──シャク、右腕にベアクロー」




「あいよ旦那」




 顔面を左手で鷲掴みにされた魔物は脚を止めずに吠えるのもお構い無しに、俺は冷淡にそうシャクに言った。


 残念だが──〝言葉の通じない奴〟と関わるだけ時間の無駄だ。




 シャクの本体である腕甲わんこうと化していた黒い流体金属がぐにゅりと俺の右手へ移動しながら形を変えて行く。


 熊の爪のような武器…漆黒のベアクローへ。


 普通のメリケンサックに似たベアクローでは無い、鉤爪かぎづめのように拳に固定され、その爪は俺の掌を広げた程に長い。


 シャクに頭を見られるのは如何いかがなものかと思ったが……これは良い。〝俺の想像通り〟だ。


 拳を握り締め、狙いを魔物の顔面へと定める──




「あばよ」




 一撃。


 決して早すぎる事の無い、その一撃は魔物の顔面から真っ直ぐに爪を導いた。


 憐れみも、喜びも、そんな感情をコイツに持つ事は周りの……あの無惨な姿になってまで子供を守ったアルミマジロの親達の無礼に値する。




───ッア…ア…




 魔物が短い断末魔を挙げた。全身に立ち昇っていた黒いもやが徐々に消え、突き刺した右腕に重さが乗ってくる。


 終わった──ッ!?




「兄ちゃん後ろッ!!」




───ッアアアアアア!!




 命の尽きた魔物からベアクローを抜こうとしたその時だった。前方の茂みからもう一体の魔物〝フライシュラスプ〟が飛び出して来ていた。


 この個体よりも大きい──この魔物の亡きがら諸共もろとも俺に突撃してくる。


 クソっ。コイツの装甲はダメになりそうだが一度身体強化で防御して体制を──!




───助太刀すけだちいたそう───




「!?」




 声が聞こえた。


 ゼーベック?いや、違う。アイツはそんな口調じゃない。




──魔物の身体に走る閃光。大きめの酒樽さかだる程の魔物の身体がピタリと活動を停止する。




 俺の疑問を差し置き、魔物の身体が──真っ二つに別れた。




「───切り捨て──御免ごめん……!」




 かちり──と、静かに金音かなおとが響き、割れた魔物の向こうで男が白鞘の刀を納刀していた。


 唐草模様からくさもようの着流し、伸びっぱなしの無精髭を生やし、後ろで簡単に束ねた肩ほどまで伸びる黒い髪の男がこちらに言葉を向ける。

 


 この男───




「失礼。厄介毎やっかいごとと目に映ったので手を出させて貰った。要らぬ世話なら申し訳ない」




「…いいや。助かった。例を言う」




───強い。




────────────

ルギ


「あの大きさなら…どれ使おうかな……!」




シラタマ


「に゛ゅ…」




シャク


「待てルギ坊、ここシリアスシーン」

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