静寂よさらば

オリンピックがあろうが無かろうが祝日だろうが「ヘタレの努力家」の更新は毎週土曜日19時です。


少しでも面白いなどと思いましたら簡単な短文でも構いません、何かアクションをしてくだされば幸いです。

────────────




「ただいまー」




「ただいまー」




「ふにゅー」




 優しくからからと動く引き戸を開け、俺に続いてルギくんとシラタマが帰宅の声を上げる。


 その豪華な景色に、大の字でシラタマの上へ乗っかっていたシャクはおずおずと女の子座りをしながら起き上がった。





「ええ…何これ…旦那こんな豪華な所に泊まってるなんて聞いてない……」




 目をぱちくりと丸くさせるシャクはまさに人形のように身体を硬直させて呟いた。


 せやろ。俺もこんなに立派な場所なんて思わなかった。




「お帰り。飯は食って来たんだろう?寝る用意も風呂も準備はしてあるから好きにしな」




 相変わらずの黒いチューブトップに黄色いショートパンツ姿の女将さん事、リンガーナさんが俺達を出迎えてくれた。


 すらりと伸びた白い手足が高身長に映えて、シンプルながらもとても妖艶。


 ありがたい。恐らくバルちゃんがご飯の事は連絡してくれたのだろう。




「やっだ、めっちゃエロい人来た。女将おかみさん?」




「エロい人言うな失礼だぞ。ありがとうございますリンガーナさん、お風呂入らせて頂きます。このオヤジ丸出しの奴はこの小手…?の付喪神つくもがみらしいっす」




「このきゅーとでぷりちーなウチにオヤジ丸出しなどと…!」




「きゅーともぷりちーも意味知らないけど何となくそうやって言う所な気がする」




「にゅ」




 そのシャクの言葉にシラタマとルギくんが思わずジト目。


 まて、貴様何処でそんな言葉覚えた。お前俺達の世界の言葉知らんやろ。








「良い湯だった……」




「にゅ……」




「気持ち良かったー」





 ほこほこの身体、疲労が溶け去った身体にて程良く冷たいおふとぅんの上に大の字。気持ちの良い事この上ない。


 上がった後にも楽しみが…やはり…風呂は良い。




「ぷすー。ウチも入りたかったー。ぷすー」




 テーブルの上で寝そべりながら不満気に頬を膨らませてはぱたぱたと足をパタつかせ、ジト目をしながらこちらを見ゆるはシャク。




たわけ。常識的に考えろ変態」




「付喪神なんでわっかりませーん☆」




「コイツ……そもそもお前は武器で流体金属だろ。風呂なんて入ったら大変な事になるんじゃねぇの?」




 てへ☆…とでもいうようにコツンと拳を頭に当てて舌を出すシャクへと不満気にそう言葉を漏らす。


 妖精のように、女性の見てくれをせどもコイツは流体金属で一応武器に組みする存在でありその通り女性の見てくれ。


 普通に考えて色々と風呂はあかんじゃろ。ましてや一緒なぞ。




「はぁはぁ…大丈夫大丈夫ウチ強いから。ご一緒でもウチは構いませんぞ…!」




「うわ……」




「手ェわきわきさせてんじゃねぇ、ルギくん引いてんじゃねぇか。とっとと寝ろ」




「もるてぃぶ!」




 手をいやらしくわきわきとさせて怪しげに涎を垂らしてにやけるシャクに向かってぶん投げた枕がすぱーんとぶち当たった。


 ダメだコイツ。ついて来させたのは失敗したかもしれん。あとなんだよその悲鳴。




「ふにゅう……」




 やれやれと言ってるように小さく鳴いたシラタマの声がやけに残って聞こえた。


 ほれ寝るぞもふもふ毛玉、こっちにきんしゃい。


 ちなみにシャク用の小さい布団も敷かれている。シャクの行動に「また面白いのが来たね」と笑い飛ばしてくれたリンガーナさんに感謝しとけよ。








──出せ!オレは死ぬ訳にはいかねぇんだ!!




 じゃらり。


 薄暗い場所で、誰かの叫びが聞こえた。


 僅かに反響するその声。どうやら隔離された、広い空間らしい。




──なら我々に協力しろ。全てはお前次第だ。




 冷たく、無機質な声で誰かが答えた。黙ってその鎖に繋がれた人物を見る影は、微動だにしない。




──……ならくれてやる……オレの能力ちからなんざ…!!好きに使いやがれ…!!!




 鎖に繋がれた人物は少しの沈黙の後、静かに吠えた。


 その返答に、影は掛けた眼鏡のズレを静かに直し、不気味な笑みを浮かべていた。









「…朝か…ぬぅ……また変な夢を見たな」




 少し重いまぶたを開け、静かに呟きながら身体を起こす。




「ふにゅ〜…」




 起きた反動でころころと胸元のシラタマが俺の側から離れた。


 ぽふん、とぶつかるのは大の字で寝っ転がるルギくんの脇の下。


 ぶつかった際の条件反射なのか、自分の元へ来たシラタマをもにゅりと抱きしめてそのまま眠るルギくん。


 かわいい。安らかに眠れ。




「…着替えるか」




 浴衣からいつもの服装に着替えながら、ふとあの夢について考える。


 あれは多分……〝続き〟だ。


 牙狼族の村、ヴァサーゴさんの家にて一度見た断片的な夢。


 

 鎖に繋がれた人物、オイルのような匂い、そして誰かの声。



「─────────」




──ああ、そうだ。────。オレは絶対に──────!




 これは〝俺が言った言葉では無い〟、俺はあの夢ではその〝鎖に繋がれた人物〟だった。


 そして、今回の夢……あれは第三者の視点だった。


 まるで──〝その場に居た〟かのような感覚。


 だからこそ確信出来た。〝夢の続き〟なのだと。




「鎖の人物に…謎の眼鏡の人物……か」




 服屋〝双蜘蛛ふたぐも〟にてこしらえてもらった真っ白なTシャツへ腕を通しながらそう呟いた。


 久しぶりに見たな、続いた夢は。


 それにしても何のお告げかね?〝予知夢よちむ〟だったりしてな、この世界ならあんな事も有り得るし。




 俺の前の世界からあるこの〝見れば正夢になる役に立たない連続した夢〟が役に立つ事があるんだろうか。







「はっ……おっきなお肉はいずこ……」




「お、起きたか。おはようルギくん」




 閉じていた目を開け、その声の主へと挨拶を飛ばす。


 肉を追いかける夢でも見ていたのだろうか?口元にはよだれあとが見えていた。




「にゅ…にゅ?…ふにゅ〜……」




 後頭部(?)へと着いていたであろう液体をおててで触り、その液体を〝取り〟ながらジト目をシラタマがしていた。


 いや、お前液体〝取れる〟んかい。すげぇな流石不思議毛玉。


 球体のようになったルギくんのよだれがシラタマのおてての上にきらりんちょ。原理が知りてぇ原理が。




「ああごめんシラタマ。洗面所いこ」




「ふにゅー」




 はいよー、とルギくんに抱えられながら、シラタマはいつも通りにのほんと目を細めた。


 うーむ……なごむ。やはり穏やかな気持ちで過ごす朝は良い物だ。




「はっ!?おにゃのこはッ!?」




「やかましい」




「ぺぷぅ!」




 小さな布団から飛び起きたシャクに枕をぶん投げる。


 コイツ忘れてた。俺の穏やかな朝よ、さようなら。




────────────

カナタ


「…俺の静かな朝が…いや、これは精神の修行だ、そう思おう」




シャク


「へいへい、頭なんて押さえて何沈んでんの。下の方は立っ──」




ルギ


「あー、サッパリし──シャクが口縛られて布団の山の下敷きになってる……」




シラタマ



「…ふにゅう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る