カナタ、立つ




「あったあった。幸(さいわ)い全種類残っておったわ」




 少し小ぶりな、手の平程の革袋を持ちながらヴァサーゴさんが居間へと戻ってくる。


 この中には俺とシラタマ、ヴィレットと姉御、そしてヴァルカンさんが何故か居た。


 ヴィレットと姉御は何となく分かるけど鍛治師のヴァルカンさんは何故いるのだろうか?


 ちなみにシラタマは子供達の相手をして疲れてるのか俺の頭の上で器用に寝ている。


 俺が傾こうがしゃがもうが頭からまったく落ちずにすーぴーすーぴーと眠りこけていた。


 子ども達と遊ぶうちに覚えた技術なのだろうか。ころりんちょしないから助かるけども。




「まぁ、大した物ではないんだがな。コレを渡しておこうと思ってな」




 じゃらり。


 軽やかな、幾つもの心地よい音が辺りへ響く。


 俺の目の前へと出されたのはビー玉よりも少し小ぶりな、様々な色をした丸い水晶のようなものだった。綺麗で可愛らしい。




「なんですコレ?」




 ころころと胡座(あぐら)をかいていた俺の元に転がって来たその水晶っぽい物の一つを摘んでまじまじと見つめる。


 見た感じはとても綺麗なビー玉にしか見えない……いや、よくよく見てみると中央部分に僅かに揺らめくような球体が見える。




「これは【魔玉(まぎょく)】と言う物で魔鉄鋼の加工をしている時に出来る結晶でな。火や水を魔力を通(かよ)わせれば発生させる事が出来る。カナタ殿は無属性と聞いたのでな。旅に行く際は重宝するだろう」




 おお!何というファンタジーアイテム。


 つまりアルから【無属性】の身体系と聞いて儚い夢と散った、手から炎を出したり稲妻放出が出来るって事か!




「目をキラキラさせてる所悪りぃけどよ。手から炎出したりだとかは出来ねえからな。その程度の大きさの魔玉じゃあせーぜー日用品として使えるぐらいだ」




「なん…だと……!?」




 ヴィレットから聞きたくなかった衝撃の言葉に思わずぽろりと魔玉を落とす。


 え、隠し芸レベルに俺のイメージが縮小されてもうたぞ?


 さらば頭の中の幻想世界…いやまてよ?




「魔玉が大きければその分大きな効果があるから安心しなよカナタ。その分作るの大変らしいけどね」




「結晶自体を作るのにゃあそれ程難しくないんだけどよ。【属性】を染み込ませるのが大変になるんだよソイツは」




 と補足するように姉御とヴァルカンがそう教えてくれた。


 なるほど?この【魔玉】がデカけりゃあ出来なくも無いが大変と。


 つまりこの大きさだとライターとか物を洗うぐらいなら出来る便利グッズ程度という事か。


 魔力があれば使える訳だから普通に便利ではあるか。




「だいぶ前にアタシの能力(ちから)はそれだけじゃあ無いって言ったろ?アタシのブーメランにもある魔玉を能力(ちから)で遠隔で発動させる事も出来るのさ」




「ヴァネッサの能力はエグいぞぉ?あのブーメランが高速回転して風の刃纏った上に炎放出してみろ?そこら一帯火の海に沈んじまうぜ?ぶはははははっ!!」




「しないよっ!アタシのイメージ崩さないでくれよ!」




 ああ…なるほど。前にヴィレットが『ここでやるにゃあ狭ぇ』って言ってた上に姉御が『今やることじゃない』って苦い顔してたのが分かってしまった。


 姉御……過去にやったんですね?


 顔真っ赤にしてワタワタと否定する姉御が可愛いんだが?


 和むんだが?コレがギャップの破壊力か。恐るべし。




「王都でも買えるには買えるがそれまで無いのも不便だろうからこの魔玉達は私からプレゼントしよう。使い方は通すだけだから心配せずともすぐ慣れるだろう。火、水、雷、地、風の五つだ」




「ありがとうございます」




 わーい、ファンタジーアイテムげっとだぜ。




「おう、カナタ。コイツもくれてやる」




「んぬ?」



 ピッ、とヴィレットが指で弾いたソレを受け取る。


 空色の魔玉みたいだが一体なんだろうか。




「カナタ殿、それは私が渡した魔玉とは違うヴィレットが持つ『風属性・身体系の魔力』が染み込んだ物だ」




「普通のとは何が違うんですか?」




「普通の魔玉に必要な魔力は基本的に放出系のみで人の手を借りずとも作れるのだよ。火のそばに置くなり水に着けておくなどとな。その強さは火力や水圧などに左右される」





 なるほど、匂いの付きやすいフィルターみたいなもんか。


 そんで魔力という空気を通すとフィルターに制限された分出てくると。




「このその人物が持つ魔力が染み込んだ魔玉…私たちは区別する為に魔跡玉(オーブ)と呼んでいるが…これを作るには大体数ヶ月程必要だ。魔玉は大体1日有れば作る事が可能だがな」




 ほう…結構大変な訳だ。ん、つまりコレはヴィレットが必死こいて作ってくれたと?




「魔跡玉は魔力一定に、断続的に掛けてねぇと出来ねえ奴でよ。…修行仲間でもなきゃめんど臭くてやりたくも無かったぜ。ま、間に合って良かったがよ」




 鼻で一息ついてやれやれとやるヴィレットは本当にめんど臭そーな顔をして腕を組んだ。


 こやつ……何というツンデレ。


 兄弟揃ってこのギャップよ。




「魔跡玉の強さは染み込ませた本人の強さに左右されるんだ。使い方は触れながら魔玉と同じく魔力を通すだけさ。そんでアタシからも魔跡玉だ。ほいよっ」




「おっと」




 姉御から軽く投げ渡されたソレを受け取る。


 色こそ無色でビー玉のようなのだが…魔玉の中央にある球体が白い何かに覆われている。


 待って。姉御の能力って確か……

 



「『無属性・放出系』魔力の魔跡玉さ。アタシ程じゃないけど使えるようになるよ。ちなみに魔跡玉ってのは元々信頼の証として贈られる物だから希少性が高いんだ取られないようにするんだよ?」




 待てい、超レアアイテムじゃねぇか。


 持ってるの怖いんだが?




「ぶはははっ!ヴァネッサ!あんま脅すんじゃねぇよ。ほれカナタ、コイツに魔跡玉を嵌め込んで身に付けな!」




 固まる俺に向かってヴァルカンさんが何かを二つ渡してくれる───腕輪だ。




「左右合計10個付けれるようにようにしてある。魔鉄鋼製で錆ねぇようにしたし、サイズを調節してくれる印も刻んで置いた。風呂だろうが血の海だろうがソイツにつけときゃー取られる事ねぇから安心しろや!ぶははははは!!」




 バシバシと背中を叩いて笑い飛ばすヴァルカンさんによって平静を取り戻す。


 流石職人。俺の心配全部解決してくれるとは有難き。でも血の海に浸かる事は無いと思いたい。




「みんな…ありがとうございます!!!!」




 手間にしたら幾らかかるのだろうか。


 いつかこの恩は返さねば。




「ああ、ちなみに我の魔跡玉を使えば下手な乗り物よりも早く進めるぞ。お前の実力なら我が使う『空脚』も覚えれるだろうな」




「ありがとう兄弟子よ」




「やめろ気持ち悪ぃ。ぶん殴んぞ」




 何故だ。折角感謝を述(の)べたのに、にやにや。







「ヴォルグもありがとう。世話になったな。野宿の道具もすまんな」




「何、息子の恩人でもあるんだ。気にするな」




 がっしりと握手を交わし、言葉を交わす。


 全くこのイケメンめ。相変わらず爽やかな牙狼族だ。


 今この場所は牙狼族の村の出入り口で村のみんな総出でお見送りしてくれている。


 思えば早かったものだ。それ程濃い日々だったと言う事だろう。




「ヴェリスリアさんもヴァインくんもお元気で」



「ええ、カナタさんもお元気で」



「カナタお兄さんも元気でねー!!」




 小さなお手手をぶんぶんするヴァインくんの姿がとても和む。


 ちなみにシラタマも両手をぶんぶんしながら「みんなー!元気でねー!」とでも言っているかのようにふんにゅふんにゅと鳴いている。


 実際そう鳴いているのかもしれんが。




「では気を付けてなカナタ殿。バルム殿に会ったらよろしく言っといてくれ」




「ええ、お世話になりました」




「せーぜー死ぬなよカナタ」




「楽しく生きな。バルムによろしくな」




「「「「「「お達者でー!!カナタさんやーーー!!」」」」」」




 寂しくないと言ったら嘘になる。


 それでも生きてる限りまた会える。


 ヴォルグ、ヴェリスリアさん、ヴァインくん、ヴィレット、姉御、ヴェイロ、ヴェイール、ヴァルカンさん、そして村のみんなや子供たち…




「みんなーー!!お元気でー!!!!」




「ふっにゅー!!!!」




 だから俺は進む。


 そこにはまた新たな出会いや楽しみがあるだろうから。



 さぁ!異世界を楽しもうじゃないか!




────────────

カナタ



「さぁ!行くぜ異世界!」




シラタマ


「ふんにゅー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る