第1章 未知と遺産
キノコと…?
ぶっちゃけて言おう。
「何も無くて平和なんだがどうした」
そう、何も無かった。
語弊があるな、【動物】などの生き物が居なかったのだ。
「あるのはこのやったら光るキノコと苔。そんで度々ある地下水か」
手元にあるキノコをまじまじと見ながらそう呟く。
水が有ったのは助かったがこう、生き物が居ないと謎の不気味さがある。
猛獣やら肉食獣に合わないのは幸運なのかも知れないが……
水は舐めて見たが痺れとか臭みなどは無く、むしろとても美味しかったので飲んでおいた。
「人懐っこいもっふもふの毛玉でも居ないかな。いや人懐っこいスライムも捨てがたい」
ふーむと顎に手をやってはもふもふの生き物を想像する。
男だが俺は可愛い物やもふもふした物、綺麗な物が好きだ。
ええやん、人それぞれじゃい。
実家に居る犬のもふもふが恋しい。ああ、もふもふカマン。ぷりーずみーもふもふ。あばばばばば。
喋ってはいないが、他人に知れたら完全にヤバイ思考。
末期症状のようにもふもふを撫でくり回す妄想をしていると、不意に耳にある音が聞こえてきた。
ふもんっ
「……何だ今の音は」
──ふもんっ、ふもんっ
アホな思考から現実に戻り、耳を澄ます。
柔らかそうだが弾むような弾力のある音が聞こえた。
ちょうど向かって右側、曲がり角の向こうだ。
「……行ってみよう……どうせ道はそっちしか無いし。凶悪な生き物じゃありませんように」
少しだけ考えたが、結局はそっちに行く事になる。
良い方に望みを託し、その音のする方向へ向かった。
さぁ、吉と出るか凶と出るか……音を立てずにそーっと……
「……毛玉だ」
曲がり角を覗くと、そこには……
思わず目が点になった。毛玉である。毛玉なのだ。まごう事なき毛玉だ。
大きさ30㎝ほどの白い毛玉がぽいんぽいんと跳ねている。
「……」
覗くのを止めて、おでこをぺちんと静かに立てて停止した思考を再び動かした。
まて、何だあれは。
凄く真っ当な感想だと自分でも思った。
ここで取り乱さずに静かに覗きを止めたのは俺が良くファンタジー物の小説を読んでいたり書いていたからなのかもしれない。
しかし、ここで止まっていても何も進まないので再度覗いて様子を見てみる事にしよう。
「ではもう一度確認」
──ふもんっ、ふもんっ
うん、毛玉だ。つーかあの毛玉何してるんだ?
相変わらず跳ねている白い毛玉を良く良く見ていると、何かを取ろうとしているように見えた。
「ふにゅっ!にゅー…ふにゅっ!」
ぐんにょりぐんにょりと、弾みをつけて上へと跳ねる30㎝ほどの毛玉。
ふと目線を上へと向けると……今俺が光源がわりに手元に持ってるキノコが大きめに数本生えていた。
あれが取りたいのか……この空間にはあそこしかないけど他の場所にいくらでも生えてるけどな。
それに…軟体っぽいから身体伸ばせば届くんじゃねーのかね。
未だにぽいんぽいんと跳ねては天井から生えるキノコを取ろうとする毛玉を見てそう思った。
ひょっとしてヌケているのか?
「……助けてやるか。あのキノコ取ろうとしてるし害はないだろう」
そう呟き、足元に転がってた手頃な石を拾い、大きく振りかぶる。
元々野球をやっていたから投擲には自信がある。
ストライクゾーンよりはデカイし近い。
狙うは根本より少し下。回転は横にかけて摩擦で削り取るように……ッ!!
──ッ。
身体のイメージは力を溜めに溜めたゴム動力。
腰から指先に向けてその力を滑らかに解き放つ。
ヒュッ、と風切り音を立て、解き放たれた石はキノコの生える天井の根元スレスレに向かう。
ぶちぃ、とキノコが石によって引き千切られる音と、ごすん、と壁に抉りこむ音が響いた。
「ふにゅっ!?」
毛玉がその音に驚き、ただでさえもっふもふの毛を一気に逆立てる。
その音の正体はキノコを引き千切った石の音だった。
役目を終えたはずの石は、込められたエネルギーをほぼ失う事は無く、それどころか壁に減り込んでいた。
……えー、横回転してんのに弾かれないで減り込むってどうなってんの……
石を投げ終えたまま、行き場のない手をぷらーんとそのまま放り出しながら1人頭の中でごちる。
嫌…普通ありえんだろ。まさか回転凄すぎて削りながら……んな馬鹿な。
「んにゅー?」
両手のような物で落ちてきたキノコを掴みながら、毛玉はこちらを見ていた。
……もむもむとキノコを咀嚼しながら。
「やっぱり食うためだったか」
予想通りの結末と、キノコを味わう毛玉の姿に癒されながら溜め息と言葉を吐き出した。
────────────
???
「なんかいた」
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