椿と貴方

「ほら、これ、咲きそうだよ」

大きな蕾の先はレッドピンク

それを指さし、楽しそうに言う

「椿、好きなんだ」

前に咲く姿が好きだと言っていた

「楽しみだね」

そんなに楽しみじゃないけれど

楽しいっていうから「うん」と言う

毎日一緒に歩くたびに言うから

彼がいなくても確認するようになった

今日は、もうあと少し

明日になったら咲いてそう

朝になって一緒に歩く

「咲きそうになってたよ」

「ほんとう? 満開なのがいいんだよね、椿」

にこにこと笑うから、少し微笑んでみた

「向日葵とは違う良さがあるんだ」

「へえ」

「深緑色の葉っぱに原色に近い椿の色って綺麗だよね」

「うん、綺麗」

「色合いが好きなんだ、あと椿の大きさ」

「大きさ?」

「知らない? 椿って花ごと落ちるんだよ」

「あー、桜でそのまま落ちてるみたいな?」

「……そう、でも椿は大きいから」

一味違うよ、と言われた

へえ、としか答えられなかったけど

うっすらと笑う彼が、少し怖かった

でも、椿の話題が終われば、ぱっと顔は変わるし

さっきまでの視線が嘘だったみたいで

椿が咲いている間、ずっとそうだった

「残念だなあ、花ごと落ちてればいいのに」

私と見比べながら、彼はそう言った

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