第3話 小屋を建てました
作物は最初からある「小麦」「大麦」「トウモロコシ」「らっきょう」に加え、「白菜」がNEWと横にマークが付いていた。
何故「らっきょう」なのか? 私もゲームをしていて不思議に思ったけど、結局謎なままだったのさ。
他にも確認したい項目はいくつもあるけど、まずは――。
「天気はいいけど、大自然の中じゃ落ち着かない……ではなくて。家を建てないと始まらなかったんだっけ」
ちょっと怖いけど、家を建てることで「ゲームの時間が進み始める」の。
だったら最初に選ばせてなんだけど、コマンドを開いたら赤字で「家を建てる」の項目が点滅しているから、それで分かるってことらしい。
家を建てるまで私がさっき見たステータス系のコマンド以外は全部灰色になって選べなくなっているし。
つまりは、家をまず建てなさいということ。
イルカくんの額にちょいちょいと触れ、コマンドを出してっと。
家の選択画面が視界に出てくる。
屋根の色が違うだけで、形は全部同じだ。
「赤色、ううん。イルカくんと同じスカイブルーにしようかな」
<これでいいかな? はい/いいえ>
「はい」に指先を当てる。
すると、イルカがくるりと一回転して飛び跳ねた。
次の瞬間、背後に大きな気配を感じる。
「た、建てる場所を指定できたような……。ま、まあ。上手くいったから良しだよね?」
振り向くと、ログハウス風の小さな家が建っていた。
トンと一段だけ木の板で作られた階段を登ると、もう入口扉になる。
「おじゃましまーす」
自分で言っておきながら、「それを言うなら『ただいま』じゃない」と舌を出す。
「リアルで見ると、こんな感じだったんだ。思ったより広いー!」
入口扉から見て前方と右手に窓があって、床はフローリングになっている。
左手は奥から壁沿いにキッチンスペース。トイレとお風呂と続く。トイレとお風呂の前には扉がある。
洗面所がないのが、ちょっと不便だけど生活する分にはこれで十分かな。
今後ゴルダを溜めていけば、イルカくんを通してショップからいろいろな物を購入もできるから。
家だって、そのうち建て替えることだってできる。
居住スペースはだいたい8畳といったところで、家具は一つたりとも置いていない。キッチンも同じ。
「イルカくん。ショップを出して」
イルカにお願いしたら、すぐにショップのウィンドウが視界に現れた。
音声認識もするんだと少し驚く。
コマンドを選んでいくより、この方が早いかも。
所持金は1000ゴルダ。ショップには日用品から家具、服までいろんなものが揃っている。
コップ、お鍋、包丁、調味料……最低限と思っているものだけでも結構な金額になるわね。
で、でも、多少日用品を絞ってでも欲しいものがあるの!
「先にベッドを選ぼう!」
最初は選ぶことができるアイテムも少ない。それでもベッドは三種類もあった。
ん、ううん。
シンプルなマットレス付きのベッドは800ゴルダもする。ソファーベッドに至っては1200ゴルダでお金が足りない。
し、仕方ない。
一番安い「すのこベッド」にしよう。これなら450ゴルダとリーズナブルである。
だけど、敷布団必須になっちゃうなあ。
すのこベッドはベッドと名前が付いているけど、板の上に布団を乗せ、折り畳んで部屋の隅に置いておくことができるものなのよ。
計算したら、すのこベッドと布団一式(まくらもね)の方が安かった。
ううん。マットレス付きの据え置きベッドだと敷布団以外を購入したらゴルダが残らないから、すのこベッド以外は選ぶことができないというのが正しい。
残ったゴルダでコップ、お鍋、フライパン、包丁、塩コショウ、シャンプー、石鹸、タオルを三枚、購入する。
あと30ゴルダしか残っていないけど。
「化粧品は無理としても、せめて手鏡と櫛くらいは欲しい……。明日まで考えよう」
どっちか一方しか買えないから……。
そうそう、ショップには食材が一つもないの。調味料はあるのだけど、ね。
そこは「ほのぼの生活」のゲーム性が関わってくる。食べ物は自分で採集するか育てましょうって。
「よし、じゃあこれで。イルカくん、注文……まって。場所を決めるから」
危ない危ない。頭の上からベッドが降ってきたら大怪我をするところだった。
「イルカくん、すのこベッドはここに、注文お願い」
イルカがパタパタと尻尾を振ると、指定した位置にすのこベッドが設置された。
その上に布団一式が出るように指定する。
うんうん。上手くいった。
ベッドも布団も柄を選ぶことができなかったから、シンプルだけど悪くない。
布団をセットしてから、残りのアイテムを全て布団の上に出るように指定し、注文する。
「これでおっけーかな?」
ベッドの上に腰かけふうと息をつく。
「お次はお外に行ってみよう」
ログハウス風の家を出て、どちらにしようかなと迷うも右手に進む。
家の右側に回り込み、家を背に草ばかりの大地へ目を向ける。
「イルカくん、畑の作成をお願い。場所はここで」
イルカはふんふんと尻尾をパタパタさせてドバーンと波を立たせた。
すると10畳くらいの広さが一瞬で耕され畝のある畑と変わる。
「すごい。これなら畑仕事をやったことなくても、大丈夫そう!」
ここもゲームと同じ仕様でよかったとほっと胸を撫でおろす。
家を建てる作業も必要なかったから、畑も同じかなと思っていたけど、スローライフ感を出すために「VR版ほのぼの生活」では耕す作業が追加されていたとしても不思議じゃない。
ところどころ、私の知っている「ほのぼの生活」と違う仕様があるから、この「ほのぼの生活」のような能力? は少なくとも私の知らない「ほのぼの生活」であることは確か。となると、最新作のVRかなって思ったの。
「イルカくん、小麦から順番に植えてもらえるかな」
イルカにお願いすると、指定した通りに種が撒かれる。
もしゲームと同じ仕様なら明日の朝には収穫できるようになっているのだけど、なっていないとちょっと辛いかも……。
収穫できない場合、まだ池も家畜も解放されていないから、果樹を探すことになるかなあ。
この後、家の周囲を探索していたらすぐに暗くなってきたので、帰宅することにした。
見える範囲を散歩しても、見えているものしか発見できないのは当たり前で……周りは草原だと分かっているから、まあうん。
何も無かった!
木々の向こう側か丘の方に行けば、何かあるかもだけど、家が見えなくなっちゃうのが怖くて今日のところはここまでにしたんだ。
暗い部屋の中、ベッドに寝転がると不安で自分が押しつぶされそうになる。
ふとそこで思い出す。
「イルカくん、化粧水をお願い」
ぱしんと手のひらに落ちてきた化粧水をぎゅっと握りしめ、胸に抱く。
お風呂からあがったら、お肌がぱさぱさになっちゃって、結局我慢できずに注文しちゃった。
暗い中、鏡もなく手探りで顔に化粧水をぱちゃぱちゃやり、就寝することにする。
そして、翌朝になってから外に出て伸びをした時、事件が起こった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます