第127話 辺境伯?

ソノーザ夫妻と次女が裁判所から去った。しかるべき場所に連れていかれたのだ。明日には、ベーリュ・ヴァン・ソノーザの首と胴が切り離されることとネフーミ・ヴァン・ソノーザが国で一番厳しい修道院送りになるのは確実だからだ。


「これでソノーザ家は罪を暴かれ、過去に取り潰しや没落した家が冤罪だったと証明されたわけだ」


「国王陛下の言うとおりですな。それつまり、ここに居る証人のザンタ殿の家も冤罪だと証明されました。ザンタ殿の人柄と功績を考えれば、ミーク家の爵位を復帰させなければいけませんね」


「……は?」


三人の被告人がいなくなったとたんに、周りに聞こえる声で語りだす国王と宰相。証人として残っていたザンタ・メイ・ミーク男爵も何を言い出すのかと困惑する。




「よって、国王ジンノ・フォン・ウィンドウがここに宣言する! 冤罪が晴れたゆえに、過去のミーク家の爵位剥奪を取り消し、ミーク家の爵位を辺境伯に戻すことを決定する!」





「「「「「っ!?」」」」」




「……え? ええ? ……じ、ジンノ……国王陛下ぁっ!?」




突然の国王の宣言に裁判所に残った誰もが驚いた。特に証人席にいたザンタは少し間をおいてから理解すると、国王を昔のように呼び捨てにしそうになってしまうほど驚愕していた。ソノーザ家の処分については事前に聞いていたが、こんなことは流石に聞いていなかったのだ。それにこんな前例もない。


「(ど、どういうことだ、聞いてないぞ!?)」


「(ナシュカ、お前は知ってたか?)」


「(いや、僕は何も……これは父上の独断か? あれ? 母上は平然としている?)」


「…………」


国王の宣言のことは息子たちも聞いていなかった。ソノーザ家の処遇については事前に打ち合わせしていたが、ミーク家の辺境伯位の復帰など聞かされていなかったのだ。もちろん、この後の行動のことも。落ち着いているのは王妃くらいのものだった。真剣な顔で国王と宰相、それにザンタを見守っている。


「へ、陛下……何をおっしゃるのですか! 我が家のことをお考え下さったのであれば嬉しく思いますが、冤罪が晴れたからと言って爵位を返すなど前例がありません! こ、このような、」


当のザンタは証人席を飛び出して国王に訴えかける。冷や汗を流した顔をするザンタの言わんとすることを察した国王はそれを遮って更に言葉を続ける。


「気にすることはない。今日がその前例になる。それだけだ」


「しかし、このようなことは大胆すぎます! ……冤罪が晴れたからと言っても時が経ちすぎました。今の私は自力で男爵に上り詰めたばかりです。今更、亡き父のような辺境伯を務めろなどとおっしゃられても周囲の反感を抱かれるだけ、それ以上にこのような決定を下した陛下御自身の立場が、」


「そういうことなら大丈夫だ。そもそも何も冤罪だったから、と言う理由だけではない。私はそなたの能力を買ってもいるのだ。平民に落ちた元貴族の身から信用が重視される商人として大成功を納めて我が国に貢献し、自力で男爵位を得るほどの手腕、未来の王妃になるはずだったサエナリアに信頼される娘を育て上げた教育能力。それらは男爵程度では過小評価に値する。私と王妃、それに宰相をはあじめとした文官たちはそのように判断したのだ。それゆえ、我が国のためにも、そなたには辺境伯に戻ってほしいということになったのだ」


「そんな……陛下……そのような……!」


ザンタは国王がそこまで自分を高く評価してくれていることに深く感激した。平民になって今日まで生きて必死で努力してきたことが一気に報われる思いだった。今、この場には多くの人がいると頭では分かっているのに、涙腺が緩くなって涙が頬に伝わった。

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