第84話 (82裏側).喧嘩している今?



こちらはソノーザ公爵家の屋敷内。どうやらライトの察した通り屋敷の一室でソノーザ公爵夫婦が言い争っていた。夫婦喧嘩のきっかけは娘の教育方針のことによる責任の押し付け合いだ。最初はソノーザ家の今後の方針を話し合うことだったのだが、サエナリアとワカナのことになると誰が一番悪いかということで醜い言い争いに発展したのだ。


「娘二人をあんなことにしおって! お前の馬鹿な教育のせいで我が家は落ち目に戻るんだぞ! どうしてくれるんだ!?」


「何よ! 娘の教育を私に押しつけて自分は出世のためにしかやってこなかったくせに! 偉そうなこと言わないでよ!」


「何をいうか! 貴族として出世のために働いて何が悪い! お前も貴族なら出世がどれ程の意味を持つか分かっているだろうが!」


「ええ、分かっていますとも! それ以上に娘を愛することが私にとって一番大事だったのよ!」


「娘を愛するだと!? はんっ! ならサエナリアはどうなんだ!? 愛情など注いだ様子などなかったではないか! ワカナしか見ていなかったくせに、愛などとほざくな!」


「貴方こそ愛情なんて抱いたことないくせに分かったようなこと言わないで! ワカナが一番可愛かったし、それにサエナリアが私に似なかったせいよ!」


「お前が生んだ娘だぞ! この私に似たのがそんなに悪いのか!」


「一番可愛い子を一番愛しただけよ! 貴方だってワカナを一番可愛いって言ってたくせに!」


「だからといってサエナリアを蔑ろにしろとは言っていない! 娘を、長女を切り捨てるな!」


「切り捨ててない! むしろ切り捨ててきたのは貴方の方じゃない! 自分の御両親に弟に取り巻きの家に、」


「両親は田舎暮らしがしたかっただけだ! 弟は勝手に出て行ったんだ! 取り巻きの家は仕方がなかったんだ!」


「コキア子爵でしょ! 借金と罪をなすりつけておいて仕方がない? あなたの不手際じゃない!」


「うるさい! そのおかげで今、公爵にまで上り詰めたんだ! 文句を言うな! 馬鹿女!」


「何よ! この欲深男!」


「何だ! 育児放棄女!」


「育児放棄は貴方の方でしょ!」


「お前に言われたくないわ!」


……責任の押し付け合いを続けるソノーザ夫婦。こんなことをしていても本当はこの二人も分かっているはずなのだ。娘二人の問題は親である自分たちが一番悪いことを。だが、王太子の婚約者だったサエナリアがいなくなり、同時にワカナの性格にかなり問題があることが発覚し、更に第一王子にも知られてしまったことによるストレスから誰かに文句を言いたくて熱くなってしまっていた。


この時、ソノーザ夫婦は知らなかった。こうして喧嘩している今、第二王子レフトンと二人の側近がやってきたことを。そして、その三人がソノーザ家に強い敵対心を抱いていたことも。信頼していた側近の執事にまでも見限られていたことも。

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