第69話 成り上がりの男爵令嬢?

マリナ・メイ・ミーク。元はとある商家の娘だった。だが、彼女の父親が三年前に他国との貿易で大成功したことによって彼女の運命は大きく変化した。


父の成功がウィンドウ王国に多大な貢献をしたと認められて、男爵位を与えられ貴族の仲間入りを果たした。本来なら一代限りの爵位でしかなかったが、父親のザンタ・メイ・ミークが元没落貴族の出自だったこともあって、特例で世襲を認められるという一風変わった成り上がり貴族になった。ミークという家名も父ザンタのかつての家系のものだったため、マリナの家は父親の努力の甲斐あって貴族に返り咲いたという方が正しいかもしれない。


ただ、マリナ自身は物心つく頃から貴族の娘ではなかったようだった。とても無邪気な子供だったらしく、貴族令嬢になった最初の頃もその面影を残し続けたらしい。愛し愛され生まれ育った為、純真無垢で世間知らず。つまり、良く言えば元気で知的好奇心旺盛な女の子であり、悪く言えば落ち着きのない貴族らしくない子ということだ。そんな少女が貴族の交流会に出れば、貴族も平民も通う学園に出れば、どれだけ目立つだろうか。多くの者が成り上がりの令嬢と嘲笑し、数少ない者が努力と才能で貴族に戻った家の令嬢と眺めるだろう。


実際、学園でマリナは言いたいことをすぐに口にしたり、身分をかさにする他の令嬢ともよく衝突することがあったようだった。ボブカットの濃い茶髪に大きな碧眼の瞳の可愛らしい少女という容姿にも恵まれていたため、多くの貴族令息に人気があり、生まれながらの貴族令嬢の大多数から嫉妬されて疎遠になっていた。一番新しい情報が王太子カーズとその婚約者サエナリアと三角関係になったという話だった。









……ここまでが、閉鎖的で情報が手に入りにくいウィンドウ学園の中で手に入れたナシュカのマリナに関する情報だった。だがそれは、マリナがナシュカ達が待つ応接室に来たことですぐに更新された。ナシュカは一目見ただけで、いかに自分の情報が古いか思い知ったのだ。


「……(彼女が、マリナ様?)」


ボブカットの濃い茶髪に大きな碧眼の瞳の少女。おそらく彼女こそがマリナで間違いないのだろうが、ナシュカのイメージとは異なった印象を感じられた。兄のカーズの話を聞く限り『可愛らしい少女』というイメージだったのに対して、ナシュカ達の目の前にいる現実のマリナは雰囲気からして『可愛らしい少女』として感じられなかった。むしろ上流貴族らしい高貴な雰囲気を感じさせる美しさを誇る女性だった。


「お初にお目にかかります、ナシュカ殿下。ミーク男爵の娘、マリナ・メイ・ミークと申します。本日はわたくしのためにお時間を作っていただきありがとうございます」


「「「っ!?」」」


自己紹介をするマリナ。その口調は元平民とは思えないほど貴族らしい言葉遣い、発する声の大きさも姿勢も正しい。格上の相手に対して頭を下げる角度も適切。言葉を聞くだけで落ち着きのある清楚なイメージを感じさせた。

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