第56話 日記△〇年〇◇月11日
ーフィリップスの日記よりー
△〇年〇◇月11日
私の功績が評価されたことによって、我がソノーザ家が昇格した……ということになっているが、実際はそうではない。そのことを大っぴらに口に出せるほど私は強い人間じゃなかった。それに、
「「フィリップス」」
「フィリップス兄さま」
「フィリップス!」
家族のこともある。気が弱いけど優しい両親、可愛くて心優しい妹。そして、出世のためなら手段を選ばなくなってしまった兄さんがいるのだ。彼らのためにも私は黙るしかなく、せめて日記に記すしかないのだ。いつの日か、この日記が兄さんの悪事を証明するカギになることを心の奥底で願う。それも私の心が弱い証なのかもしれないが……。
そんなことばかり考えている私だったが、ある時、双子の妹のイゴナが銀髪碧眼の子息と楽しく会話しているとことを見てしまった。二人とも心なしか頬が薄っすら赤く見えるのは気のせいでもない。二人の仲が気になった私はすぐに駆け寄って……偶然を装って会ってみた。
「やあ、イゴナ。お友達とおしゃべり中かな?」
「あっ、兄さん。こちらはシュウラ様。私と同じクラスの人なの。シュウラ様、こちらは私の双子の兄のフィリップス・ヴァン・ソノーザです」
「初めましてフィリップス様。僕はシュウラ・ラウド・スミロードです」
「えっ、もしやスミロード公爵の!?」
「その、次男です」
目を晒されて次男だというが、私は驚いた。スミロード家は公爵家のはずだ。そんな家の次男とイゴナが何故、一緒に歩いているのか。私は兄さんが何か企んで二人を……などと考えたが、次のイゴナとシュウラ様の言葉で安心した。
「兄さま、シュウラ様が公爵令息だからって、かしこまることないよ」
「え? 何を言うんだイゴナ。うちの家と比べて、」
「あ、あの、僕は家が公爵ですが僕が家督を継ぐことはありません。僕の兄が継ぐのは間違いなくて、僕は期待されなくて……気にしないで接してもらえると……」
「あ、そ、そうですか。これは失礼しました」
何か気が弱そうな人のようだ。それに男なのに妹のイゴナと背丈が変わらない。よく見れば女性に間違われそうな顔にも見える。どういう人物なんだ?
「フィリップス様、いえ、お兄さん。僕は家庭での立場とこの容姿のせいで、家で期待されず存外に扱われ、自分に自信が持てず鬱屈としていました。ですがイゴナ様に我が心を救ってもらって今は救われた気分で過ごすことができています。願わくば彼女と共に人生を歩んでいきたいと思っています。これからもよろしくお願いします」
「………ふぇ?」
「ちょ、ちょっと、何言ってるんですか!?」
……とんでもない告白をされた。隣でイゴナが顔を真っ赤にしてギャーギャー騒ぐけど耳に入ってこなかった。
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