第10話 謝罪?

ウィンドウ王国の第一王子カーズ・フォン・ウィンドウ。青紫色の髪と深紅の瞳を宿す美男子だ。成績優秀で運動神経抜群の文武両道で女性に圧倒的な人気を誇る。


だが、学園に入る前から女性に関心を持たない性格だったという。自身の婚約者に対してもそうだったため、サエナリアとの関係は親密とは言えなかったらしい。


それがソノーザ公爵家の知るカーズ王太子の特徴だ。


「公爵、突然の訪問、申し訳ない」


「いいえ、構いませんよ王太子殿下。本日はどのようなご用件でしょうか?(速く済まさねば!)」


結局、ベーリュは公爵家の当主として、カーズ王太子を屋敷に出迎えた。だが、緊張するベーリュをよそに、カーズは暗い雰囲気だった。


「…………」


カーズの様子に訝しむベーリュ。やがてカーズは意を決したように重い口を開いた。


「公爵! サエナリアに会わせてもらいたい。許してはくれないかもしれないが、謝罪だけでもさせてほしいんだ」


「……え? どういうことですかな?」


訳が分からない。謝罪とはどういうことなのか、ベーリュは何も分からなかった。何しろ、娘のことは妻に任せっきりだったのだ。ここでも、困ることがあるのかとベーリュは親らしいことをしなかった自分が恨めしい。


「何? サエナリアは何も言っていないのか?」


「む、娘からは何も……あの子は学園のことは何も言わないのです」


「そうだったのか。……実は先日、恥ずかしい話になるのだが、彼女とある令嬢のことで口論になったのだ。いや、攻め立ててしまったんだ」


とある女性と聞いて、ベーリュは眉間にシワを寄せた。目の前の王太子の醜聞でもある。


「それはもしや、ミーク男爵令嬢のことですかな」


「! ……その通りだ。娘に聞いていないのに知っているということは、社交界にも知れ渡っていたか。いや、当然といえば当然だろうな」


「その御令嬢と娘の間で何かあったのでしょうか?」


「……まずは、最初から知ってもらわねばならんな。だから、そこから話そう」


「……はい(最初からか、長くなりそうだな)」





王太子カーズの話によると、確かに彼は男爵令嬢マリナ・メイ・ミークのことを気にかけていたという。何でも、とあるきっかけで関わるようになってから、カーズのほうから惹かれるようになったらしい。


「彼女は、マリナは王宮にいるような女性たちとは違っていたんだ。多くの者が王族としか見ない私を個人として見てくれていたんだ」


カーズは普段見せないような幸せそう顔でミーク男爵令嬢とのかかわりを語った。そんな王太子を見てベーリュは顔には出さなかったが………呆れた。


「(何だこいつは、これが今の王太子なのか? 見た目に反して頭お花畑じゃないか! 王家は何をしていたんだ……)」


はっきり言ってベーリュは惚気話を聞かされているような気分だった。聞いてて腹立つ。こんな時に「婚約者の父親の目の前で何を言ってるんだ!」……と言いたいが、相手が王太子であるため、下手に諫めることができない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る