光の柱と二人の想い
@CLiMP
第1話 ペポリの厄日
高い高い山の上に煌々と輝く満月の下、一人、柔らかな薄紅色の髪を波うたせながら相棒の馬と共に、光も届かぬ暗い閉ざされた森の中を駆けていた。
彼女の後ろには森の闇に見え隠れしながら黒い魔の手が距離を詰めていった。
「リック!急いでこの森を抜けるわよ!」馬のリックは応えるように更に速度を上げる。
女は後ろに迫る魔物の攻撃をすらりと伸びた白く輝く剣でいなし何とか距離を広げると、剣を縦にサッと構え、白い剣の輝きが増すと剣先を闇に向かって放ち、森全体が一瞬白い輝きで満ち、魔物は消えまた元の静寂な森へと戻った。
「絶対に助けるから、無事でいて、ジル!」女は唇を噛み、呟いた。
「今日晴れて良かったー!」手を広げながらヌアル平原を駈けていくフィーネ。
「冒険もちょっと休憩してたまには皆で出かけるのもいいな。」楽しそうなフィーネをアルドは優しく見守りながら言った。
「ふふっ、フィーネ嬉しそう。皆でピクニックなんて滅多にないものね。」アルドの後にエイミが続く。
「気温、湿度、大気中ノ紫外線全てニオイテ、本日はピクニックに最適ですノデ!」リィカも目を輝かす。
「フィーネちゃん、朝早くから新作のサンドイッチ作ってたもんな〜」と、 ペポリ。
「あれはとってもノスタルジックでいて、かつセンシブルな感じで…」モベチャが後に続こうとした時、
「もー!食べるときのお楽しみだから言っちゃダメーーー!」フィーネがプンプン怒りながら2匹を叱った。
「堪忍やでー!フィーネちゃん」ペポリが体を丸くして震える。
「そんなに怒らないでー」モベチャも耳をパタパタさせながら逃げる。
「あれ、そういえばサイラスは?」周りを見渡すアルド。
「家から出た時は居たはずなんだけど」エイミは首をかしげる。
その時、ザッパーーーーンと大きな水しぶきと共にサイラスが池から姿を現した。
「ふぅー、やはり晴れた日の水浴びは最高でござるな」と、気持ちよさそうにアルド達に近づいてきた。
「サイラス!急にいなくなってびっくりしたぞ!」
「ひどいな、僕たちも誘ってよー」モベチャがピョンピョン飛び跳ねながら残念がった。
「まったくもう、サイラスったら。サファギンに襲われても知らないわよ!?」
「いやー、すまん、すまん。水辺はどうも飛び込みたくて体が持っていかれるでござる」
サイラスが快活に笑う。
「それより池に情緒不安定なおじさんはいなかったか?」
「? 何のことでござるか?」
「いや、いいんだ。忘れてくれ。」
「お兄ちゃん、みんな揃ったしどこか、座れるところ探そうよ!」
「ああ、そうだな」
アルドが適当な場所を探していると、ぬある平原の南の方から、弱弱しい動物の鳴き声が聞こえてきた。
「ん?今何か聞こえなかったか?」アルドがフィーネに話しかける。
フィーネも耳を澄ます。するとさっきよりも鳴き声が近づいてきた。
「お兄ちゃん、声のする方へ行ってみよう」頷き合って声のする方へ向かった。
すると、前方から今にも倒れこみそうな馬が見え、馬の上には、意識が無いのか、だらりと腕をたらして人らしきものが、もたれかかっていた。そして馬の鳴き声とは別に、凶暴な大声が馬の後ろから聞こえてきた。
アルド達は馬の背後に魔物が迫ってきているのを見つけ、急いで駆け寄った。
「危ない!早く助けに行かないと!フィーネはみんなを呼んできてくれ!」
「お兄ちゃん、気を付けてね!」フィーネは仲間を呼びに駆け戻っていった。
アルドはなんとか、魔物よりも先に馬の元に駆け寄り、間一髪で魔物の襲撃を防いだ。
しかし、魔物は後ろから次々仲間を呼ぶと襲いかかり、じりじりと防戦一方になった。
「くっ、これじゃキリがない。みんなが来るまでにもちこたえられるか。」アルドが応戦していると、背後から魔物が攻撃を仕掛けてきた。
「しまった!防ぎきれない!」と思ったとき、
「円空自在流、涅槃切り!」銀色の太刀筋が光った途端、魔物が倒れた。
「アルド、大丈夫ござるか!」「ああ、ありがとう!助かったよ。」
エイミ、リィカも追いつき次々と魔物と交戦した。
「せっかくの休日を台無しにした罪は重いわよ!」エイミがフルパワーで魔物をなぎ倒していった。
リィカもパワーを込めた槌で魔物をけちらしていった。
「乙女ノ楽しみヲ奪う者ハ容赦シマセン!」
「これで終わりだ!」アルドが最後の魔物を倒した。
「ふぅ、なんとか倒せたな。みんな、助かったよ。」アルドは剣を鞘に戻しながら礼を言った。
フィーネが馬に駆け寄ると、馬は先ほどまでの魔物の襲撃でひどく怯えているようだった。
「もう大丈夫だよ。魔物は全部やっつけたからね。私にあなたの傷を見させてもらえないかな?」フィーネが馬にそっと手を差し伸べる。
馬はなかなかその場から動こうとしなかったが、フィーネは根気強く待った。
しばらくして馬は緊張の糸がきれたのか、その場にどさりと座り込み、その拍子に馬の上にもたれかかっていたひとのようなものが転げ落ち、仰向けになった。
するとそれは、薄紅色の流れるような髪に端正な顔で肌白く、全身深紫の服の上に白い甲冑をまとった女性だった。
「このお馬さん、ひどい傷をおってるみたい。それにこの女の人も全然意識が無いみたい」フィーネは馬に回復魔法を施すと、女性の方へ向き直り声をかけてみた。
「脈ハ少シ弱いですガ、他ハ外傷、内傷ともニ、目立った傷ハ見受けられませんノデ!」
「そうか、じいちゃん家が一番近いな。早く二人を運ぼう。」そして一同は村長の家へ急ぎ戻った。
女は気が付くと町の中にいた。淡い翡翠や群青といった色とりどりの石で綺麗に組み合わさった家々が並び、人通りが多く活気づいていた。しかし、ところどころが灰色のもやのように霞んで見えた。
“ここは・・・、私の町?・・・そうよ!今までのはきっと夢だったのよ!”
“みんなー!無事だったのね!私よ!ねぇ、ジルを見なかった?あの子、そそっかしいからすぐどこかへ行っちゃうの。ほんとに毎回探すのが大変で・・・“町を行きかう人々は女がまるで見えてないように素通りしていく。
“みんな、どうしたの?私の声が聞こえないの?ねぇ、なんとか言って!”女は町行く人々の肩を掴もうと手を伸ばしたが、むなしく空を掴んだだけだった。
そして急に周りが何か見えない引力にひきつけられるように風景が渦になって吸い込まれていき女もまた、同じように渦の中に引っ張られていった。
女はハっと、目を覚ますと右手を上に向かってあげており、手の先にはどこかの家の天井があった。女はまだ意識がぼんやりとしていたが、次第に森の中の出来事を思い出し、ガバっと上身を起こした。
ふと横をみると、目の前には緑色と黄色の奇妙な生物が興味深々にこちらを覗いているではないか!
「やっと目覚めたんかー、みんな心配してたんやでー!」
「どこか痛い所はない?食欲はある?」
と、緑色と黄色の奇妙な生物が矢継ぎ早に質問をしてきた。
「きゃーーーーーーー!魔物がいる!剣、私の剣はどこ!?」女は懐に手を当てたがそこには何も無かった。
「落ち着いてぇな!わしらは何もせえへんて!この家でお世話になってるんや」ペポリは懸命に女を落ち着かせようと試みたが、なおも女は暴れて抵抗した。
「モベチャ、アニさん達を呼んできて、でないと、ワイの顔がアボカドみたいに黒ずんでしまう!」ペポリは既に所々黒ずみ、必死に女の攻撃を防いだ。
すると、下階で叫び声が聞こえたのか、アルドたちがバタバタと駆け上がってきた。
「これは、一体どうなってるんだ!?」アルドが目を丸くして破れたシーツや窓のヒビ、へこんだ壁の雑然とした部屋を見渡した。
「今度は何!?あなた達、誰!?この魔物の味方なの!?襲ってくるなら容赦しないわよっ!」女はペポリを人質のようにして離さず、アルドたちを睨み付けて、叫んだ。
「落ち着いてください!私たちはヌアル平原で魔物に襲われそうなあなた達を助けたんです!お馬さんも無事ですよ!」フィーネは必死で落ち着かせようと声をかけた。
「リック!リックをあなた達が介抱してくれたの?・・・リックの元に連れて行ってくれる?そうしたらあなた達を信じるわ」女は馬の名前を聞いて、少し落ち着いたのか、戦闘態勢を解いた。
「お馬さん、リックっていうんですね!かわいい名前です!今は家の外で寝てます。ついて来てください。」女はフィーネの後に続き、家の外に出る。そこには藁の上で気持ちよさそうに寝ているリックの姿があった。
「わぁーーーーん!!リック!!無事で良かった・・・!」愛馬が無事で安堵したのか、リックの首に飛びつき女は泣きじゃくった。
「・・・皆さん、リックの面倒見てくれてありがとうございます。・・・ぐす・・・あなた達を疑って本当にごめんなさい。今までの非礼を詫びるわ・・・。」
「信じてくれてよかったよ」アルドもほっと胸を撫で下ろす。
「でも、驚いたわ。リックの傷がすっかり綺麗に治ってるなんて。誰が手当てしてくれたの?」
「私とリィカさんです!」フィーネが答えた。
「KMS社製汎用アンドロイドとシテ当然の行いですノデ!」
「そうなのね。改めてお礼を言わせてちょうだい。あとそう言えばまだ名乗ってなかったわね。私の名前はケイトよ。好きに呼んでね。」
「俺はアルド。あと妹のフィーネと旅の仲間のエイミ、サイラス、そしてリィカ。それに、緑色がペポリで、黄色いのがモベチャだ。」
「みんな、本当にありがとう。それにあなた達の家もめちゃくちゃにしちゃって、ごめんなさい!!体もすっかり良くなったしすぐに直すわ!」そう言うとケイトは凄いスピードで家に戻っていった。
「おーい、待てって!女の子一人にさせる訳にはいかないよ!材料もないし!」アルドが慌てて追いかけながら声をかける。
「今まで寝てたのがウソみたいね・・・」エイミは半ばあきれながら後に続く。
「何はともあれ、元気そうで何よりでござるな!」とサイラスが愉快そうに笑う。
アルド達が2階に上がると、ケイトがヒビが入った窓に手を触れていた。すると、手から淡い雪のような白い小さな光がフワフワと現れ、次第に窓全体へと広がっていった。光がすっかり窓を覆ったかと思うと、どんどん元通りに修復されていった。ケイトは次々と破れたシーツや壁を直していった。
「すごい・・・、キレイな光。それに部屋が元通りになってる!」フィーネは淡い雪のような白い光に見惚れていた。
「どんな魔法なの?今まで見たことないわよ」呆気にとられるエイミ。
「これはまた奇怪な!お主、どこで修行したでござるか?」サイラスは目をまん丸にして口が開きっぱなしになっているのに気づかないようだった。
「エネルギー計測中。このエネルギーはかなり特殊なようデス!今までのデータからはどの分類にもヒットしまセン!」リィカも目の前に起こった出来事に興奮しデータの収集に集中している。
「驚いたな!確かにちょっと部屋の修繕を手伝ってもらおうかと思ったけど、ここまで元通りにしちゃうなんて、すごいな!」と、アルドも口が開けっぱなしになった。
「ふふふ、そんなに驚いてもらって嬉しいわ。私は治癒より修復の方が得意なんだけどね。でも緑の君も叩いたり引っ掻いちゃったりしてごめんね。今元通りにするからね、…上手くいきますように!」
「最後のはどういうことやー!?」ペポリが言うか早いか例の光がペポリを包み込んでいった。光が消えたかと思うと、ペポリの傷もキレイに戻っていた。
「わぁ~、すごい!モベチャよかったね!」ギュっとモベチャをハグするフィーネ。
「兄やーん!!元に戻ってよかったーー!このまま腐りかけのアボカドみたいなままだったらどうしようかと思ったよー」モベチャに飛びつき泣き出すモベチャ。
しかし、ペポリはボーっとして突っ立ったままだった。そして急に体が震えだしたかと思うと、その場で踊り始めた。
「ペポッペポッペポッポッポ~♪」ペポリはモベチャを巻き込み、クルクル輪を描きながら陽気に踊っている。
「ペポリ、どうしちゃったんだ!?とまれって!」
「アニさん、止めんといてくれ!今踊りたくてしょうがないくらいハッピーなんや♪」
「きゃー!ごめんなさい!やっぱり上手くいかなかったみたい」ケイトが両手を顔の前で合わせ謝った。
「やっぱりって、どういうことですか!?」困惑した表情で見つめるフィーネ。
「私は治癒魔法のコントロールが上手くきかなくて、なぜかみんな気分が高揚して酔った感じになっちゃうの。」ケイトが申し訳なさそうに縮こまる。
「あはは。すごい素敵な魔法だと思うよ。見てるこっちも楽しくなるし」とアルド。
エイミがいたずらっぽく「あら、アルド。じゃあ今度ケガしたときはぜひ治してもらいなさいよ」とくすくす笑う。「うっ・・・、俺は遠慮しとくよ」タジタジになるアルド。
「回復魔法にコノような作用があるトハ!更にデータを収集しマス!ペポリさん!スキャンさせて下サイ!」リィカは目を光らせながらモベチャとペポリの周りをせわしなく観察した。
「もー!みんな!早くペポリを止めてあげないと!」フィーネが魔法をかけてあげると、ようやくペポリは動きを止めた。
モベチャは肩で息をしながら「大変な目におうたわ~、今日は厄日かな」と嘆く。
「でも、不思議ね。リィカがあなたの体を見て、外傷も内傷もないって言っていたけど、あなた自身に回復魔法をかけても気分が高揚したりしないの?」エイミがケイトに尋ねた。
「えぇ、私自体は影響を受けないみたいなの。それに傷を負っても常に自己回復できるの。」
「信じられない!そんなの無敵じゃないか!」アルドは羨ましそうに言った。
「そうでもないの。」ケイトは思いつめたような顔をし暫くしてからスッと顔を上げ話し始めた。
「これも何かの縁かしら。せっかく助けて貰ったんだもの。あなた達には私の秘密を言っても大丈夫ね。」と言うと、服を少し広げた。胸元には翡翠色の4㎝ほどのひし形の石が埋まっていた。
「石が埋まってる・・・?」アルドは独り言のように呟く。
「そう、この石は、アペズタントというの。この石がある限り傷ついても、すぐ体は治るわ。
・・・でもこの石の効力がなくなった時、それが私の死ぬ時よ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます