【修正版】アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

襲撃の夜

★第1話

 夜半になって、風向きが変わったようだった。

 ダークブラウンの長めの髪が、火の粉を纏った風に吹かれて宙を舞う。

 宵闇と同じ色をした軍服を纏った青年は、風に靡く長めの髪を手で払うと、濃い紫色の瞳で眼下をじっと見下ろした。


 視線の先では、とある二棟の建物を目掛けて一方的な激しい銃撃と、建物を破壊する爆破の音が続いていた。

 青年が腰に付けた通信無線機からは、繰り返される銃声音と、幾重にも重なった音の雨に掻き消されないように、喉がはち切れんばかりに攻撃を指示する指揮官の声が流れていた。


 両者が交差して飛び交う様は、まるで一種の交響曲を奏でているようであり、ある種の戦場の華と言えるかもしれなかった。

 そんな戦場を賑わす交響曲が絶えず腰から流れ続けており、高みから指示を出す青年はそれに聴き入っていたのだった。


「ラナンキュラス少将」


 青年の後ろから、同じ色の軍服姿の部下が声を掛けてくる。

 先程まで眼下の戦場で指揮を執っていた部下からは、硝煙と汗が混ざった不快な臭いがしていた。


「風向きが変わりました。ここにいては、我々も襲撃の巻き添えをくらいかねません」

「そうだな」


 額に汗の玉を浮かべた部下に促されて、ラナンキュラス少将と呼ばれた青年は、もう一度、眼下に視線を向ける。

 通信機からは銃声音と指揮官の声に紛れるように、微かに建物内の人々の泣き叫ぶ声が聞こえてくる気がした。

 自分たちーーペルフェクト軍に向けられた恨みの声さえも。


「気のせいか」

「はっ?」

「いや、なんでもない」


 それを冷たく一瞥すると、二人の青年はその場を後にしたのだった。

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