直滑空

 そろそろ長閑のどかな春先の、お日様ポカポカ軒先に、ひゅっと横切る影ひとつ。


 おやと思って窓の外、こっそり覗いて見てみれば、ご機嫌カラスが鳴いている。

「カー」と一声準備して、さっと広げた両翼を一度もたたまず飛んでいく。


 ふたつ向こうの屋根の上、スタッと上手に着地して、尾っぽをふりふり二度ばかり、ぴょんと跳ねたと思ったらクルリと身軽く向きを変え、羽根の内側ついばんで、何やらこまごまお手入れを間に挟んで「カー」と鳴く。


 すると、もっかい羽広げ、サーっとこちらに飛んでくる。


 あわや、ベランダ突っ込むか、ヒヤリとしながら見守って固唾かたずを飲んだ家主だが、カラスは気にせずご機嫌で、ほとんど羽ばたくこともなく真っ直ぐ飛んで軒先で、きゅっと上昇、足出して、そのまま上手に着地した。


 屋根の上から楽しげに「カー」と聞こえてくる次第。


 ほとんど垂直飛行する、ギリギリ回避がお気に入り。


 スリルとショックとサスペンス、脳裏をよぎるフレーズに家主は思わず苦笑い。

 万が一にも距離感を掴み損ねた暁は、きっと保健所呼ばないと……片手にスマホを握りしめ、息を潜めて窺う先で大きな影が落下する。

「ぎゃー」と思って立ち上がる家主の視線のその先で、カラスは呑気に羽広げ、悠々自適に飛んでいく。


 直滑空を習得し、何度も何度も繰り返し、風に乗っては「カー」と鳴き、楽しく屋根から落っこち飛んで、やっぱり「カー」と鳴いている。


 K点越えの大ジャンプ……いやいや、あれはグライダー。

 羽ばたくことなく一息で、どこまで飛べるか試してる。

 次々編み出す大技は、オリンピックも夢じゃない。

 もしもカラスの世界にも、カラリンピックがあるのなら、カラリンピアンのメダリスト、誕生する日も遠くない。


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 カラスにも個体差はあると思いますが、改めて知能の高さに驚きます。(目撃したこちらはヒヤヒヤさせられますが)

 この後、住居を移すことになったので今作は一旦ここで終了いたします。

 新居でも楽しいエピソードが溜まってきつつあるので、近いうちに「続カラスのうた」を公開できればと考えています。

 ひとまず、ここまでのお付き合い誠にありがとうございました。

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