狩り

 お天気の良い、土曜日の、朝にシーツを干していた。


 バサバサ、妙に、騒がしい。向こうの通りが騒がしい。


 見上げた空の、その向こう、一羽のカラスが飛び回る。何かを追いかけ、飛び回る。喧嘩か何か分からんが、周囲のカラスも騒がしい。


 何事かしらと首傾げ、頭をそむけたその直後、バサバサ何かが突っ込んだ。うちのベランダ突っ込んだ。


 何事なんだと目を凝らす。植木の向こうの、その陰に、人頭大の塊が、バサバサ羽毛を撒き散らす。


 洗濯物をかすめ抜け、裾を引っ張り足元に、ゴロゴロ転がり飛んできて、室外機の裏、逃げ込んだ。


 カラスは向かいの屋根の上。

 ガー、ガー、喚いて、こちら見る。こちらはポカンと口開ける。警戒心が強いのか、こちらに飛んでは来ないけど、室外機の裏、睨め付けて、屋根の上から鳴き喚く。


 これは一体、何事か。


 そうっと覗いて、見てみれば、そこには一羽の丸いハト。羽毛を散らして震えてた。ぶるぶる震えて、裏側で、羽を散らして傷だらけ。周囲も丸ごと羽だらけ。


 これは、これは、と思ったら、怯えた鳩が飛び出した。


 室外機の裏、ベランダの、サンの隙間をすり抜けて、慌てて転げて逃げてった。


 ガー、ガー、鳴いてる屋根の上、カラスも即座に追いかけた。転げる鳩を追いかけて、向こうのお庭へ飛んでった。


 周囲のカラスも騒がしい。

 近所の犬まで吠え出した。


 お天気の良い、土曜日の、朝からこちらはがっくりと、洗濯物見て肩落とす。羽に塗れたシーツには、鳩のあしあと付いていた。

 白いシーツに残された、茶色いあしあと見つめては、これが自然の摂理だと、静かに黙祷モクトウ捧げたさ。



——————

 これには本当に、たまげました。

 助けてあげたかったけど、条例で野生動物には手を出せない地域なので、見守ることしかできませんでした。

 普段はご陽気に鳴いて暮らしているカラスですが、とてもスズメモクとは思えない獰猛さを初めて垣間見た瞬間です。

 まあ、カラスが広義的にスズメ目に分類されることにも驚きましたが。

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