カラスのうた

古博かん

カラスのうた

あしあと

 カラスのあしあと見ぃつけた。

 川の近くの公園の、端の小さな入り口の、コンクリートに残された、小さなあしあと見ぃつけた。

 ぺとぺと、全部で十八歩。

 今じゃ、すっかり乾いちまって、小さな窪みが残るだけ。

 一体全体どうやって、小さなあしあと残された?


 コンクリートが乾く前、ここを歩いたカラスはどなた?

 ちょいと周囲を見渡せば、いつもの場所にカラスが一羽。

 こちらを覗いて「カー」と鳴く。

 お前さんかと尋ねれば、カラスはやっぱり「カー」と鳴く。

 

「おや、何だ? 人間どもが、おかしな事をしているぞ。

 おや、何だ? ベトベトどっぷりグレーのどろどろ」


 川の向こうの電柱の、上からひょいっと舞い降りて、くだんのカラスは得意げに、一歩手前に降り立った。最初はどうやら恐々こわごわと、ちょいと踏み出す足先に、ぺとっと最初の一歩が残る。

「やや。何だ、これ。何だ、これ」


 ぺとぺと、全部で十八歩。

 気付くと、あしあと残された。コンクリートにちょこちょこと、小さなあしあと残された。カラスは一度、振り返り、満足そうに尾っぽを揺すり、そのままひらりと飛んでった。

 

 あるいは、案外真相は、こんなものかもしれないと、

 カラスを見ながら、ふと思う。


「ぎゃあ、何だ、これ。めり込んだ!」

 ふにゃりと沈んだ足元に、カラスはばさばさ大慌て。

 ぺとぺと、全部で十八歩。

 夢中で走って向こう側。どきどきしながら振り返り、小さなあしあと、ちょっと見て、「カー」鳴いては飛んでった。「ぼく知らなーい」と鳴きながら、カラスは急いで飛んでった。


 もっと利口なカラスなら、あしあとつけたその足が、乾く前にと、小川に降りて、足をパシャパシャ十八度、すっきりきれいに洗うだろうか。

 

 小さなあしあと見ぃつけた。

 いつもの公園通るたび、同じところに残された、カラスのあしあと見るたびに、思わずにっこり綻んで、ひょいと周囲を見渡せば、必ずカラスが飛んでいく。

 今日は電柱飛び越えて、向かいの屋根で一休み。

 今日は大きな松の木の、枝の間で一休み。


 いつものんびり欠伸をし、ころころ喉を鳴らしては、尾っぽをふりふり、

「カー」と鳴く。小さなあしあと見つけた時から、カラスは少し特別な、

小さな小さなお隣さん。


——————

 近所の公園の出入り口をならしていたんですよ、業者さんが。

 次の日、足跡が残っていたんですよ、ならしたコンクリの上に。

 今も、足跡はガッツリ残ったまま、近所の子供たちが自転車を乗り入れて、公園で元気に遊んでいます。

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