第2話 ナイスミドルと相棒ロボ
「当初ベテラン刑事はロボットに当然反発するわけよ。『お前のようなポンコツが出る幕じゃないんだよ。いいか。ついていくのは認めてやるが俺の命令には絶対従えよクズ鉄』と」
「そりゃ最初はそうこなくちゃねえ」
「ロボットもロボットで慇懃無礼でベテラン兵の悪口に皮肉で返したりするようなキャラなわけよ『そのウイスキーをお代わりすることであなたの判断力は元々低い新米警官レベルから爬虫類レベルへと低下…退化することが予測できます』みたいな」
「バディモノって水と油ってくらい最初は相性悪くないとダメだかんね。それ正解」
相模原がビシッと指差してくる。
いつの間にやらリア充グループもガリ勉グループもいなくなっている。教室内は一定の静けさを取り戻していた。
残っているのは俺と相模原と他数人のグループだけだ。
こうやって放課後にダベったりするのは俺たちの趣味というかお約束ごとでもあるのだが、それ以上に他のグループと帰る時間をズラす意味合いもある。
そのムーブから見て分かる通り俺も相模原もクラスカーストは最底辺。うだつの上がらない高校一年生生活をエンジョイアンドエキサイティングしていた。
入学当初、早々にグループを、友達を作らなければ孤立確定の東京コンクリートジャングルで俺は…自分から話しかけるというドラクエの勇者なら出来て当たり前の行動が何一つ出来ないダメ人間だった。
というか見知らぬ土地でいきなり知らない人に声掛けるとか勇気ありすぎだろ!
ああ、だから勇者なのか。
開幕スタートに失敗した俺は誰を呪うでもなく、かといって自分を呪う度胸もなく、ただただ無心に学校に通い続ける三年を過ごすことを覚悟した。
そんな俺にある日相模原が声をかけてくれたのだ。
今日のような放課後、楽しそうにしている他グループを尻目に帰り支度をしていた俺の意識外から相模原は上ずった、というよりキョドった声で話しかけてきた。
「あああああのさ町田君ってさ駅みたいな名前だよね。わわ私もほら相模原だからさ、お、小田急線だよね。小田急線! 小田急線仲間だね!」
「おおお、お、ほ、ほんとだ。小田急、小田急線だ。ハ、ハハ……」
こんなゴミみたいなコミュニケーションから俺と相模原の仲は始まった。
相模原は見た目だけならイケてるグループに属すことができるってくらい身なりが、身なりだけでなく顔も整っていた。
サラリとした髪が目元を隠しているので普段はわからないが不意のタイミングでチラリとあのクリッとした透き通るような目が見えると正直ドキッとするほどだ。
勿体ないと思うのだが本人は顔が隠れていたほうが安心するらしい。
『理想は貞子!』とのこと。
そんな相模原の前髪に優しく触れて顔を見ながらワイシャツのボタンを上から四つくらい開けて
「ふーん。お前結構かわいいじゃん。おもしれー女。俺んとここいよ」
なんて言う気も更々ないし到底言えないしそもそも言う資格もないし考えるだけで鳥肌立ってきましてよ!
そんなわけで確かにこれじゃ”上”でやっていけそうにないなと俺は相模原とつるみだしてすぐに感じ取ってしまった。
最初はギクシャクしていたが今ではお互い気軽に悪態をついたりつかれたりできる程には仲良くやれている。本当にありがたいことだ。
そんな俺達はできるだけ上のカーストのグループと接する機会を持たないことを是としている。
上の奴らと絡んでも良いことなんて何もない。百害あって一利なしだ。
少しでも高校生活を快適に過ごすための処世術ってやつだ。相模原もそこに言及していないが薄々勘付いてはいるはず。いるだろうなあ。
「そんな二人だけど事件を追っていくごとに修羅場をくぐっていくごとに絆が深まっていくわけよ!」
「やっぱバディモノって尊(てぇて)ぇね!」
「ベテランも心を開いて『俺の前でぶっ壊れるんじゃねえぞクズ鉄』『私実は保証期間が切れているんですよ。なので簡単に壊れるわけにはいかないんです』くらいのやり取りをね? しちゃうわけよ相模原」
「きてましてよ」
相模原がお嬢様言葉をお使いあそばされはじめた。ノってきている兆候だ。
「そんな一人と一体がな! ラストに大ピンチに陥ってしまうんだよ!」
「おお~! ピンチだねえ。それは敵に囲まれて的な? それとも脱出不可能な状況で建物が崩れていく的な? 私としては後者路線かなあ」
「俺もそう思うわ。脱出不可能路線。そんでな、瓦礫に足を挟まれる主人公。脱出不可能だわな。それを庇うように覆いかぶさるロボ!」
「わかった。わかっちゃったよ町田氏。そこで主人公は『バカなことはやめろ! お前は逃げろ! これは命令だ!』でしょ?」
相模原が興奮しながらまくし立ててくる。あーあー前髪乱れちゃってるよ。
「わかっちゃいましたか。そうそれよ。」
「当然それを拒否するロボットでしょ! 『"どうやら私の内部にバグが発生したようです。あなたの命令を聞くことができないようです』みたいな!」
俺と相模原の話の立ち位置が入れ替わる。こいつテンション上がるとこうやって人の話を乗っ取ってくるんだよなあ。嬉しそうだからいいけど。
相模原は頬を紅潮させながら続ける。
「最後瓦礫の中から這い出る主人公。その傍らにはすでに事切れているロボ。これでしょ町田氏」
「だなあ。掛け替えのない存在を守る為に己の中のプログラムすら書き換えて人間の命令を無視するロボ。てぇてえなあ…」
「てぇてぇねえ町田氏~」
相模原が俺の肩をバシバシ叩いてくる。普段は無表情なのに自分のツボに入ると人が変わったように表情豊かに接してくる。
こいつが嬉しそうにしてるとなんだか俺も少し嬉しくなってきてしまう。
「だろ? メカと男の友情モノって朝飯に出てくるシャウエッセンくらい最高だわ」
どうやら相模原にはその尊さがバッコシ伝わってくれたみたいだ。
たまにそのセンスを疑うこともあるがこいつは基本なかなかいい趣味をしている。俺ほどではないけどな!
「あ、でも町田氏ぃ。ロボが主人公を庇う時は顔の人工皮膚が半分剥がれてたりとかしてたら更に良くない?」
「は?」
「ん?」
俺の頭の中でゴングが鳴り響いた。
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