335話 扉の奥の男
『いいや、違う。ヴェルデバランは千年前に死んでいる……』
声の主はそう語るのであった。
ヴェルデバランは死んでいる……?
だとしたら、こいつは誰なんだ?
「じゃあ、一体お前は誰なんだ? どうして、こんなところに閉じ込められているんだ?」
予想外の事態に、おれは男にそう問いかけるのであった。
こいつがヴェルデバランでないとしたら、アイシスはどうしておれをここに……。
頭の中に疑問が次々と浮かび上がってくる。
すると、再び扉の奥から男の声が響く。
『知りたいか……? 私がどうしてヴェルデバランの魔王城の最奥に隠れ潜んでいるのかを……』
「別にお前が何者でも構わない。ただ、アイシスがここに来いって言ってたからおれは来たんだ。ここに来て、ヴェルデバランと話せって」
そうだ。
こいつが何者だろうが、どんな理由でここにいようがおれには関係ない。
問題はアイシスがおれをここに連れてきた理由……それがわからない。
一方で、男の方は何もかもお見通しでも言わんばかりの口調で話をしてくる。
『ふむ、そうか……。やはり、お前はお前ということか……』
「さっきから、何を言っている! おれにもわかるように説明しろ」
こんなやり取りが続くあまり、おれは思わず声を荒げてしまう。
一体、こいつは何なんだ……?
どうして魔界にいるこいつがおれのことを知った様な口してんだよ……。
すると、男は柔和な声色で謝罪をするのであった。
『いやはや、悪かったな。実はアイシスに命令してお前を連れてくるように言ったのは他でも私なのだ。彼女は本当によく働いてくれる』
アイシスがこいつの言うことを聞いているだと……?
いや、何も不思議な話ではないか。
彼女はおれにアレコレ話すようなことはしない。
今回の件も、なんだかんだおれのためを思って動いてくれているのだろう。
「お前がおれに用があるのはわかってるんだよ。ここにはお前しかいないんだからな! それで何でアイシスに命令しておれをここに呼んだんだ?」
埒があかなくなってきたので、おれは単刀直入に用件だけを伺う。
もはや、この男が誰なのかはあと回しでよいだろう。
すると、男は少しとぼけた口調で語り出すのであった。
『お前をここに呼んだ理由か……。直接話をしたかったから——ではダメか?』
「おい、ふざけているのか……?」
予想外の男の発言に一瞬おれはイラッとして、思わずおれも喧嘩腰の口調になる。
すると、男はようやく核心を突いたことを語り出すのであった——。
『いや、ふざけてなどいるものか。そろそろ、お前も自分の正体が気になってきた頃かと思ってな』
「なっ……」
思わず、おれは一瞬固まってしまう。
自分の正体——それはかつて天使シャロンに言われた言葉と同じものであったからだ。
自分の正体を思い出せと——。
あれから長い月日が経ち、今日いろいろなことがわかった。
おれがアルフレッドと呼ばれる男の記憶を持っていること。
そして、アルフレッドの記憶には天使シャロンがいたということだ。
なぜ、おれはアルフレッドという男の記憶を持っているのか。
どうして天使シャロンはおれの周りに魔族や十傑の悪魔を派遣したのか。
それなのに、彼女はなぜ今日おれたちを殺さずに生かしたのか。
これらの謎はおれの正体とやらを知ればわかるのか。
そればかりが頭の中をグルグルと渦巻いていた。
そんな中、扉の奥にいる男からの言葉——。
こいつはおれの正体を知ってるというのか……?
『どうした? 知りたくはないのか。なぜ、天使シャロンがお前に固執しているのかという
黙り込んでいるおれを見かねたのか、男は再度おれに呼びかけてくる。
おれは一度冷静になって男に尋ねてみるのであった。
「お前は知っているのか……? おれの正体を……」
恐るおそるおれは問いかける。
すると、男は笑いながらおれの質問に答えるのであった。
『あぁ、もちろんだとも。だからこそ、二人きりで話したくてお前をここに呼んだのだ。アイシスやゼシウスたちを遠ざけてまでな……』
こいつが何者なのか、今のおれにはわからない。
だが、こいつが有益な情報を持っているということは確かだろう。
アイシスがこいつの命令に従っているという以上、敵対する存在でもないはずだ。
ならば、おれの答えは決まっている……!
「教えてくれ! おれの正体を……!!」
おれは覚悟を決め、男に対してそう宣言する。
『構わないとも。ただ、自分の正体を知った以上、もう後戻りはできないぞ』
「それはどういうことだ?」
後戻りができないだと……?
思わずおれは問い返した。
すると、男はおれがこれまでに感じたことがないほどの魔量を誇示して説明する。
『自らの定めに従い、戦い続けなければならない。その覚悟が今のお前にはあるか……?』
男はおれにそう問いかけるのであった。
その『覚悟』という言葉には、男から感じる強い思いがあり、重みを感じる言葉であるのだった——。
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