321話 ユリウス vs アベル&カシアス(4)

  更なる魔力を解放したユリウスは、人が変わったかのように動きが変化する。

  純粋にパワーとスピードが桁違いに飛躍し、魔法の攻撃範囲が広がり対処が困難となる。



  カシアスと力を合わせることによって、何とか互角に対抗することができていたおれだったが、再びユリウスの勢いに押されはじめるのだった——。



  ユリウスが発動した魔法により、四方八方から電撃が襲いくる。

  それも、その一つひとつが魔王から放たれる一撃必殺クラスの雷撃だ。


  普通であれば、それに反応することも、それを止めることも劣等種である人間にはできはしない。

  だが、おれはそんなユリウスからの攻撃に対して、カシアスが攻撃の予測して教えてくれていること、それからおれを担い手として認めてくれた聖剣のおかげで、ギリギリのところでなんとか対処していくのだった——。



  「クソッ……強いな。だが、それでもおれたちは負けるわけにはいかないんだぁ!!!!」



  このままでは、この世界が崩壊するとユリウスは語っていた。


  ユリウスが望む悪魔たちが安心して生きられる世界というのは理想のものなのかもしれない。

  だけど、だからといって、そのために今この世界にいる他の種族たちを犠牲にしてもいいなんていうのは間違っている!


  そんなこと、絶対にさせてたまるものか……!!



  「黒氷撃破ダークブリザードバースト!!!!」



  カシアスの力を借りて、おれは闇属性と氷属性の複合魔法を解き放つ。

  聖剣の切先から、闇の纏った氷の刃が無数に放たれ、ユリウスの雷と交錯して相殺する。

  さらに、氷の刃はそれだけに留まらず、ユリウス本人にも襲いかかるのであった。


  だが、ユリウスは雷の盾を発動しておれたちの魔法を無効化する。

  そして、幾つもの稲妻を一つにまとめあげ、今まで以上の破壊力を持つ攻撃をおれに向かって解き放つのであった——。



  その図太い雷を前に、おれが解き放った無数の氷の刃たちは一瞬にして消し炭となってしまう。

  そして、ユリウスの放った特大の雷撃を、聖剣だけでは防ぎきることができないのであった——。



  『氷獄の盾グレイシャー・シールド!!!!』



  しかし、咄嗟にカシアスが防御魔法を発動したことにより、巨大な氷塊の盾が現界し、なんとか危機を乗り切る。


  だが、事態は想像以上に悪い方へと流れているのだった——。



  「防いだか……。これはどちらの生命力が先に尽きるかの勝負だな」



  ユリウスが解き放った特大の魔法を、カシアスと協力することによって防いだおれを見て、ユリウスはそう語る。



  生命力だと……?

  まさか……。



  『おい! カシアス、まさかお前……』



  おれは念話のメッセージを使って、融合シンクロしているカシアスに問い詰める。

  魂の魔力を使っているのではないかと……。



  以前、精霊であるハリスさんが教えてくれた。

  精霊体の肉体は魔力でできており、外部から魔力を取り入れることで生きていると。


  だが、それにも限度があり、限界を超えて魔法を使うとなれば、自らの魂を構築している魔力を使う必要があるのだと。

  そしてもちろん、魂を構築している魔力を使うということは、死へのカウントダウンを自ら行っていることと等しいと……。



  そして、カシアスはおれの問いかけに対し、誤魔化すことなく答えるのであった——。



  『はい、生命力を使っております。しかし、アベル様! 今はそのようなことを気にしている場合ではございません。今はこの世界を滅亡を防ぐことだけをお考えください!!』



  じゃあ、カシアスから今供給されている魔力は、カシアスの生命力だっていうのか。

  このままじゃ……カシアスは……。



  考えてみれば、簡単にわかった話ではないか。

  おれがここに到着する前からカシアスは、ぼろぼろになりながら一人でユリウスと戦っていた。


  さらに、おれをかばって盾となり傷ついているにも関わらず、無理をいって一緒に戦ってもらっている。

  おれが限界を迎えていたように、カシアスだって既に限界を超えてしまっていたんだ。


  それなのにおれは、自分勝手にカシアスを利用して、そんなことは考えないようにしていたのかもしれない……。

  おれというやつは……。



  次々に、自分を責める考えが浮かんでくる。

  どうしてこうなってしまったのかと、他にもっとやり方があったのではないのかと。



  だけど、カシアスはそんなおれの思考を読んだのか、沈みかけたおれの気持ちを奮い立たせようと呼びかけてくれるのであった。



  『アベル様!! これは私の意志で行っていることです。ですから、貴方様は私の意志を無駄にせず、思う存分に使ってください!!』


  『それに生命力を使って戦っているのは私だけではないようです。ユリウスもまた、私同様に生命力を使ってこの戦いに臨んでいます。これは互いの理念をかけた最後の決戦なのです!!』



  おれはカシアスの言葉を受けて、覚悟を決める。



  「あぁ、そうだよな……。わかったぜ、相棒!!」



  そうだよな……。

  おれはカシアスの覚悟と意志を無駄にしてしまうところだった。


  それに、今はそんなことを考えてる場合じゃない。

  ありがとう、カシアス。

  またお前に助けられたよ……。



  そして、おれたちは最後の力を振り絞って、次の一撃にかける。

  気力も体力も、魔力も——。

  そのすべてを懸けてユリウスに挑むのであった。



  「長かった……。だが、ようやく雌雄を決す時がきたようだな」



  そして、それは敵であるユリウスも理解しているようだ。

  ユリウスもまた、おれたちと同様に己の力をすべてかき集めて次の一撃に懸けるようであった。

  彼の魔力が、一点に集中していくのを感じる——。




  そして、先に動いたのはユリウスの方であった。



  「迅雷殲滅龍華ドラゴニック・ジェノサイド・ライトニング!!!!」



  ユリウスの背後に現れた無数の水晶玉から、一点に雷撃が放たれたかと思うと、集約された電撃は巨大な龍の形を成して、おれたちに襲いかかってくる。


  その電撃の龍は、それが持つ膨大な魔力により、周囲の空間が歪んでしまうほどに禍々しい存在であった。

  もしも、おれ一人であったなら立ち向かうことができずに挫けてしまったであろう。



  そんなおれはカシアスと共に聖剣に全魔力を降り注いで、ユリウスに正面から立ち向かう。

  そして、この一刀にすべてを懸けるのであった。



  「漆黒烈火斬ダークフレイムバースト!!!!」



  この世界を呑み込んでしまうかのような深淵の闇の炎が斬撃となって、《聖剣ヴァルアレフ》から解き放たれる。




  いっっけぇぇぇぇええ!!!!!!




  おれとカシアスの全ての力を込めたその斬撃は、あらゆるものを呑み込みながら、道を切り拓く——。



  そして、長きに渡った魔王との死闘に終止符を打つのであった——。

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