319話 ユリウス vs アベル&カシアス(3)
「ビビっているんだと……。この俺が……。殺すことを
ユリウスはそう自分に言い聞かせるようにつぶやき、身体を震わせる。
そして、彼の魔力はさらに上昇していくのであった。
これまでも、その圧倒的な魔力を放つユリウスを前に、おれの身体はすくんでしまいそうになっていた。
だが、今はそれらを通り越して大地へ押しつけられてしまうほどの重圧感を感じている。
もしも、カシアスと
本当に、おれはカシアスに救われてばっかだな……。
「そんな甘ったれた感情は、とっくに捨て去ったんだぁぁぁぁああ!!!!」
ユリウスは雄叫びをあげると、彼の背後には雷を宿した無数の水晶玉が再び現界する。
そして、それらが白く輝いたかと思うと、雷鳴を轟かせ、電撃が放たれるのであった——。
「頼んだぜ、相棒!!」
おれはカシアスに聞こえるよう、そうつぶやくと空へと駆ける上がる。
今のおれたちならば、ユリウスとも互角に戦える気がした。
カシアスと魔力を合わせれば、ユリウスの一撃だって恐れることはない。
だからこそ、受け身でいるのではなく、攻めの姿勢で迎え討つのだ……!
そして、おれの意図をしっかりと汲んでくれる
『はい……! 私の全てを……貴方様に託します!!』
その声と共に、カシアスの魂からも魔力が供給されてくる。
これだけの力があれば、おれたちは——。
そして、ユリウスが解き放った電撃を聖剣でなぎ払う。
「うおぉぉぉぉおおおお!!!!」
おれが聖剣に魔力を込めて振り払うと、その電撃は明日の彼方へと向きを変えて、流れるように飛んでいく。
「何っ!?」
これにはユリウスも驚きの声をあげる。
だが、それでも彼は怯むことなく、次の攻撃へと移る。
ユリウスの背後に浮かぶ無数の球体が次々と白く輝き出すと、おれたちへ向けて一斉に電撃が放たれるのであった。
だが、おれたちは恐れることなく立ち向かう。
そして、それらの猛攻を聖剣で一つひとつをふるい落としていく。
上空へと駆け出したおれたちは、徐々にユリウスとの距離を縮めていく。
すると、雷を宿した水晶玉から放たれる電撃の威力は高く、密度は濃くなっていく。
最後には、カシアスの魔力を大幅にもらい、一気にまとめて振り切るのであった。
「オラァァァァアア!!!!」
そして、おれたちとユリウスの間には一本の道ができあがる。
遂に、ここまでたどり着いた。
カシアスと力を合わせることによって、おれはここまで来れたんだ……。
魔界最強の魔王であるユリウスに、真っ向から挑むところまで……!!
そして、ユリウスは魔剣を取り出すと、正面から突っ込んで来るおれの一撃をそれで受けとめるのであった。
ギィィィィーーーーッッン!!!!!!
おれたちの聖剣とユリウスの魔剣が、互いに互いを食いつぶそうと交じり合う。
二つの剣が交差するその一点からは膨大な魔力が拡散して周囲へと放出される。
そして、これによっておれは、マジマジと至近距離でユリウスという男と向かい合うのであった。
よく見れば、苦悩に満ち、憂いを帯びた暗い瞳で彼はおれたちを見つめている。
彼の瞳からは一切の希望を感じられず、絶望、妬み、僻み、憂いといった負の感情が伝わってくる。
間近で向かい合うおれは、そんな印象を受けるのであった。
そして、そんなことを考えていると一瞬にして腕にかかる力が消えてなくなる。
よく見ると、目の前にいたはずのユリウスは姿をくらませており、その場から消えてしまっていたのだ。
おそらく、転移魔法を使ったのだろう。
だとすれば、いったいユリウスはどこへ……。
『アベル様! 後ろです!!』
カシアスの声を受け、おれは無我夢中で聖剣を振るう。
すると、腕にはしっかりと手応えがあり、何かとぶつかった衝撃を受けるのであった。
「何だとっ!?」
おれの背後にユリウスの姿があり、驚きの声を上げる。
ユリウスは転移魔法を駆使し、攻撃を仕掛けてくるのであった。
だが、おれはカシアスの念話を受けて、背後から襲いかかるユリウスの攻撃への対処に成功する。
これはおれたちがこれまで培ってきた信頼と経験があったからこそできた技だ。
やはり、二人一緒ならば、おれたちはさらに強くなれる……!
おれは足らない戦力と知識をカシアスのおかげで補える。
悪魔であるカシアスは聖剣を扱えないが、おれの身体を使えば聖剣だって使いこなすことができる。
そして、おれの中にあった仮説が真理へと変わっていく——。
「ユリウス……。お前は以前、おれに言っていたな。理想を実現させるのには、力と知識と覚悟がいるって」
おれは向かい合うユリウスに対して、語りかけるようにしてそう言葉を投げかけた。
「そうだとも……。だからこそ、おれは強くなった! 情報を集めた! 心を殺した……!! だから——」
「じゃあ、なんでそのすべてを持っているはずのお前は、未だに悪魔たちを救えていないんだよ!?」
「何だと……?」
おれはユリウスに現実を突きつけるのであった——。
確かに、ユリウスは強い。
魔王序列第1位のその実力に偽りはなかった。
おれもカシアスも一人では手も足もでなかった。
それに、こいつは驚くほどの知識を持っている。
おれが知らないこと、《|不完全な魂《ハーフピース》》についての知識も持っていたし、おれたちのことだってすべてお見通しのようだ。
さらに、おれとは違ってその人生を懸けて戦い続けていく覚悟だって持っている。
目的のためならば、どんな辛い決断だってできるだけの覚悟を持っている。
だが、それでもユリウスの目的は未だに達成されていない。
3000年もの間、奔走し続けているのにも関わらず、未だに彼の夢は成し遂げられていないのだ。
しかし、何もこれは驚くことじゃない。
なぜならば、所詮これらの条件というのはユリウス本人が信じてやまない妄信に過ぎないからだ。
決して、この世界の真理などではない……!
「おれはこれまで、ずっと認めたくないと思いながらも、お前の言っていることは間違ってはいないと思っていた」
「確かに、無力なおれはお前が言う資格は何ひとつ持ってやしない……。だけど、だからといって、それがお前の言っていることの正しさを示しているわけではないんだ!!」
それから、おれはユリウスと一度距離をとって、聖剣での次の一撃の準備をする。
この戦いを通して、おれは理解したんだ。
本当に必要なものが何であるかを——。
「お前には一番大事なものが欠けている! そして、おれはそれを持っているんだ! 一緒に夢を見てくれる仲間が、支え合ってくれる仲間が、おれにはいるんだよ!!」
「一人では叶えられない夢も理想も、こいつらと一緒ならば、絶対に叶えられるんだ!!」
そして、おれは剣技を以ってユリウスに襲いかかる。
その打ち合いに、聖剣での攻撃に一度でも喰らえば大ダメージを受けてしまうユリウスは防御に徹することになる。
到底敵わない相手だと思っていた。
そして、実際に戦ってみて諦めそうになった。
でも、それでもおれはまだ戦い続けることができているんだ。
あれほどあった実力差は、もうほとんどなくなった。
無謀だと笑われるような夢を叶える上で、一番大切なものを、お前は持っていないんだよ!
「仲間だと……。そんなもので……そんなものに、俺は負けるわけにはいかない……!!」
「あいつらだって、俺が語った夢を否定したんだ……。仲間とはいえ、所詮は他人でしかない。そんなものを得たくらいで、強くなった気になるなァァァァアア!!!!」
ユリウスはそう雄叫びを上げると、さらに魔力が上昇していく。
おれはどこかデジャヴのようなものを感じる……。
今のユリウスから放たれている魔力からは、懐かしさと心地よさを感じる。
おそらく、ユリウスが今解放した魔力こそ、かつてカシアスから奪い取ったという膨大な魔力なのだろう。
『どうやら、ここからが本番のようですね。アベル様、まだ戦えますか?』
心配してくれるカシアスの声が魂を介しておれに届く。
そんなこと、聞くまでもないのにコイツときたら……。
「もちろんだとも! もっと、自分の主人を信じてくれもいいんじゃないか……?」
『そうですね。失礼しました……』
姿こそ見えないが、カシアスがふっと笑ったような気がした。
さぁ、どうやらここからが本番のようだ。
不思議なことに、負けるようなネガティブな思考は浮かんでこない。
今までのおれなら、少なからず恐怖心から最悪の状況を考えてしまっていたのにも関わらずだ。
さて、それではおれたちも全力を以ってして挑もうか——。
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