210話 エストローデ vs アベル&カシアス(3)

  「さぁ、最終局面といこうじゃないか……」



  「いいだろう。おれも、負けるわけにはいかない!」



  蒼く染まった魔剣を取り出したエストローデ。

  青色の髪は逆立ち、その瞳はギラリと輝く。


  そして、お互いに転移魔法で距離を詰めて剣を交えるのであった。



  激しい魔剣のぶつかり合い。

  互いの魔剣からは魔力がほとばしり、その戦闘の過激さを表す。


  そして、エストローデは剣を交えながらおれに話しかけてくるのであった。



  「おれはどうゆう訳か、生まれた時からずっと力を求めてきた。強くなりたい! 強くならなくちゃ! ってな」


  「それで考えたんだ。強いやつと闘うことこそが、強くなる一番の近道だってな! そのためにおれはユリウス様の配下となったんだ!」



  自分の過去を語るエストローデ。

  おれはそんな彼に尋ね返す。



  「だからどうした? それとエトワールさんを騙して利用することにどんな関係があるんだよ!」



  「関係だと? 確かにエトワールを利用したところでおれが強くなるわけじゃない。だが、実際それによってお前はおれの前へとやってきたんだ!」



  おれたちの魔剣での戦いはエストローデの方は膨大な魔力の一押し、そしておれはアイシスから学んだ剣術で対抗する。



  「おれはあの方に聞いたんだ! お前を倒せば長年の謎が解けるかもしれないってな! そう、どうしておれがずっと力を求めてきたかって謎がな!」



  おれを倒すと疑問が解決するかもしれないと話すエストローデ。

  彼の魔力量がさらに上昇してゆく。



  「だからこそ、あの方はお前を誘き出すために色々なエサを撒いていたんだろうな。エトワールもそのうちの一人さ!!」



  おれを利用するために、様々な工作をしてきたと語るエストローデ。

  おれはその話を聞き、嫌でも力が入る。



  「お前のそんな事情なんて知ったことか! お前の自分勝手な願望のためにおれたちを利用してんじゃねぇぞ!!」



  おれがいったい何をしたっていうんだ……。

  おれのせいでエトワールさんたちが傷ついたっていうのか?



  「とにかく、エトワールさんを元に戻しやがれ!!」



  おれは変わってしまったエトワールさんを嘆き、怒りに任せて魔剣を振り払う。


  エストローデはそれを綺麗な身のこなしで躱すのであった。



  「クックックッ……。おれがエトワールに思考支配をかけてたのなら、解いてやってもいいんだけどな」


  「まぁ、操られてることに気づくことすらできなかったお前らに、あいつの思考支配を解くのは不可能だ!!」



  エストローデが魔力の込められた重い一撃を連発してくる。

  おれはそれを耐えるので精一杯だった。


  そして、カシアスがおれに念話でメッセージを送ってくる。



  『アベル様、申し訳ございませんでした。我々はエトワールにかけられている思考支配に気づくことすらできませんでした』


  『おそらく、エトワールあの者に思考支配をかけた者はエストローデより遥か高みにいる存在。エストローデにも解くことをできないのでしょう』



  カシアスは自分たちがエトワールさんが悪魔たちに操られていることを気づけなかったと謝ってくる。


  おいおい、まさかとは思ったけど本当にエトワールさんは思考支配を受けたのか?

  クソッ、本当に十傑の悪魔たちに操られていたとは……。



  『そっか。お前らが気づけなかったのなら仕方ない。それで、エトワールさんを救うにはどうしたらいいんだ?』



  おれはカシアスに尋ねる。



  『それはあの者の意思の力と、心の奥底にある良心次第ですかね。そのためにも、まずはアベル様がエストローデを倒すことからです!』



  『そっか、わかったぜ。それじゃ、いくぞカシアス!』



  おれはカシアスに声をかけて勢いよくエストローデに飛び込む。


  エストローデもどこか楽しそうに微笑みながらおれに向かってくる。



  そして、全てをかけた一撃を放つのであった……。



  「イッけぇぇぇぇええええ!!!!」



  おれの持つ魔剣からは漆黒のオーラ溢れ出る。

  既に、魔剣が保有できる魔力量の限界まで達しのかもしれない。



  そして、エストローデの放った一撃と衝突するのであった。



  魔剣同士が交差して、おれとエストローデの顔は数十センチのところまでくる。


  魔剣が交わり合う点からは禍々しい魔力が放出され、周囲を包んでゆく。




  クッソ……負けそうだ。




  少しずつ、少しずつおれの方が押されて後退る。


  さらに、エストローデの魔力が未だにグングンと上昇してゆくのがよくわかる。

  本当にとんでもないやつだ。




  しかし、おれは一人ではない!




  『大丈夫です。貴方様には私がついております』



  『アベル様とエストローデの間に壁があるのなら、私がその壁の先へと導いて差し上げます』



  苦しい状況の中で聞こえてくるカシアスの声。

  それがおれの心を支えてくれる。


  そうだ!

  今のおれにはカシアスが付いていてくれるんだ!



  おれとカシアスが手を組めば、絶対に負けることなんてない!!!!



  そして、おれの身体から溢れる魔力もドンドンと上昇してゆく。



  「クッ……イイぜ! 最高だぁあ!!」



  おれに笑いかけるエストローデ。




  そして、この戦いは静かに幕を下ろすのであった。



  互いに全てをかけたこの戦いは、最後におれが魔剣を振り抜いたことで終結したのであった……。




  ◇◇◇




  エストローデの発動していた魔法の効果が切れてゆく。


  先ほどまでおれたちを襲っていた嵐は止み、暗雲を裂いて光が辺りへと差し込む。


  上空で戦いを終えたおれたちにも、太陽の光が降り注ぐのであった……。



  エストローデの魔剣は二つに折れ、彼の身体をおれの魔剣が貫いている。


  そして、少しずつエストローデの身体からは魔力が光となって拡散し、薄まってゆくのであった。



  「ふっ、おれもここで終わりか……。ディアラあいつにも随分と迷惑かけちまったな」



  ボソリと何かを後悔するようにしてつぶやくエストローデ。


  おれはそんな彼を見つめていると、どこか心が痛むのであった。


  すると、エストローデがふとおれの瞳を見つめる。



  「必死に戦うお前を見ていると、どうしておれが力を求めていたか少しわかった気がするぜ。ありがとな……」



  そして、エストローデはおれに微笑みかける。


  ただ、それは先程までの歪んだ笑顔ではなく、どこか優しげな笑顔だった。



  「そんでもって、やっぱあんたには勝てなかったよ。楽しかったぜ、アベル……。いや、し……ぃ……」



  そして、エストローデは最後何かをおれに伝えようとしてくれた。


  ただ、その前に彼の瞳はゆっくりと閉じてゆき、彼の魔力は消え去ってしまったのだった……。

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