207話 エストローデ vs アベル(3)

  エストローデの魔法により操られた天候。

  強風と共に雨が吹き荒れ、向かい合う二人を襲う。


  エトワールにとって、それはシシリアたちを救えなかったあの日を思い出さずにはいられない光景だった。


  そして、昔話を終えたエトワールはセアラに向かって叫ぶ。



  「お前のせいだ……。お前がさえ生まれてこなければ、おれはこんな事にはならなかったんだ!!」



  エトワールがセアラに向かって風の斬撃を放つ。

  その斬撃は、彼の恨みつらみが乗っかったとても重たい一撃だった。


  彼女はそれをアベルから受け取った魔剣で防ぎる。


 そして、エトワールを見つめ一人嘆くのであった。



  「エトワールさん。今の貴方はとても人間とは呼べません。悲し過ぎる……」



  そうして、セアラは覚悟を決めるのだった。


  何者かに操られているエトワールを取り戻すと。

  かつて、自分の両親を救ってくれた恩人たちを取り戻すと。




  そして、彼らは再び剣を交えるのであった。




  ◇◇◇




  二人の戦いが繰り広げられる上空で、おれとエストローデは向かい合う。



  嘘だろ……。



  エストローデがおれたちの追っていた悪魔だとしたら、バルバドさんを騙して利用していたのはエトワールさんということなのか……?



  おれはエストローデの言葉から最悪のシナリオを導き出す。

  そして、エストローデに尋ねるのであった。



  「おい、お前がバルバドさんを騙して利用したのか……?」



  すると、エストローデはやっと気づいてくれたのかとでも言いたいそうに微笑む。



  「正解だ。おれとエトワールでバルバドを騙したんだ。まぁ、正確に言うとおれはエトワールの方も騙してるんだけどな……」



  ゼノシア大陸で冒険者ギルドと結託し、バルバドさんを利用してカレンさんをはめようとしていた悪魔。

  自分がその悪魔だと自白するエストローデ。


  さらに、彼はバルバドさんだけでなくエトワールさんも騙していると語る。



  「たくっ、死んだやつが生き返るわけがないだろ? あんな子ども騙しの魔法と魔法具に引っかかるなんて、やっぱ下界のやつらは低能だよな〜。ハッハッハッ」



  騙されている二人をバカにし、ケタケタと嘲笑うエストローデ。


  おれはそんなやつに我慢ができなくなり、魔法を放つのであった。



  漆黒の弾丸がエストローデを襲う。


  だが、やつはそれを容易く受け止める。



  「エストローデ! おれはお前を許さないぞ……」



  死んだ人をエサに、生きている人を騙して利用する。

  その最低な行為におれは目の前の悪魔を許すことができなかった。


  バルバドさんがどんな想いでセシルさんを救おうとしていたか。

  どんな想いで愛するカレンを苦しめてしまっていたのか。


  それを思い出すと、おれはエストローデを前に我慢することなどできなかった。


  こいつはおれより強いのかもしれない。

  どうあがいても勝てないのかもしれない。


  だけど、おれはここで引くわけにはいかないんだ!!



  おれがエストローデに向けて放つ魔法の威力が上がってゆく。

  今までなら制御することなんてできなかった威力の魔法も不思議と操れる。



  すると、エストローデが歓喜の声を上げはじめる。



  「そうだ! そうだ!!」



  「もっとだ、アベル! お前はその程度のやつじゃないはずなんだ!!」



  まるで狂人。

  やつは強くなってゆく敵の存在を喜んで受けて入れているようだ。


  だが、いくらおれの攻撃魔法の威力が上がってもエストローデの放つ風属性魔法に相殺されてしまう。



  クソッ……。


  そろそろ限界が見えてきた。

  このままじゃ、こっちが先に燃え尽きちまう。



  すると、突如として防戦一方だってエストローデが攻撃態勢に移る。



  「さぁ、それじゃおれもやり返そうじゃゃないか!!」



  彼の両手に光が収束されてゆく。


  神々しいと思えるほど、エストローデの光属性魔法は美しかった。



  まただ……。

  そういえば、ユリアンの魔法を見たときと同じだ。



  この美しく、綺麗な魔法はどこかで見たことがある気がする。

  いったい、いつ見たんだっけ……?

 


  そして、おれの頭の中に一つの映像が浮かんでくるのだった——。



  ◇◇◇



  目の前には可愛らしい金髪の女の子いる。

  眩しく輝く花畑で、彼女がおれに微笑んでいる。



  『君はいったい、誰なんだい……?』



  おれは心の中で彼女に問いかける。



  待て、どこかで彼女を見た事があるような……。

  違う、どこかで彼女と会った事があるような……。



  ◇◇◇



  そして、おれはエストローデの放った魔法に包まれるのであった——。



  あっ……。



  考え事をしていて、目の前にいる敵の事を忘れてしまっていた。



  おれ、死ぬのかな……?



  おれの周りの景色一帯が光に包まれる。



  何も見えない。


  何も感じない。



  どこか懐かしい感覚がおれを包み込む。

  そういえば、昔もこんな体験をしたっけ。


  サラがおれに攻撃を魔法を放って、おれが防御魔法を使って……。

  あの時は、闇に閉じ込められたんだったな。


  そっか、懐かしいな……。



  そんな中、光に閉じこめられているおれに向けて、呼びかけてくる声があった。


  とても温かく、どこか落ち着く声が、おれの心に響いたのであった。



  「お待たせしました。アベル様」



  そして、突如としておれは現実に引き戻される。

  おれを包み込んでいた光はかき消えてゆき、目の前に漆黒の悪魔が現れる。



  辺りを見回せば、暗雲によって曇った空。

  暴風に雷雨と、荒れ狂う天候。


  おれが先ほどまでエストローデと戦っていた戦場がそこにはあった。



  帰ってきた。

  光に包まれた世界から。


  いや、連れ戻してくれたのか。

  おれの相棒が……。



  「ようやく来たか! 会いたかったぞ、カシアス」



  楽しそうに微笑むエストローデ。

  彼はカシアスを待ち望んでいたかのように歓迎する。



  「おや、それほど楽しみにしてもらっていたとは光栄です。はじめまして《風雷の悪魔》エストローデ」



  カシアスはそう言ってエストローデに向けて一礼すると、おれの側に転移してくる。



  「さぁ、アベル様。共にやつを倒しましょう。話はそれからです」



  おれと一緒に戦ってくれるというカシアス。

  そんな彼の言葉に、おれは心が安らぎ勇気をもらえるのだった。



  「あぁ、頼んだぜ! カシアス!!」



  こうして、おれたちとエストローデによる戦いの第二ラウンドがはじまるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る