154話 ダリオス vs アベル&ハリス(2)
おれはダリオスと対峙する。
並々ならぬオーラを漂わせているのは悪魔に力を与えられているというだけではないのだろう。
ダリオスが戦いにおいて類い稀ない才能を持っていることはケビンやネルから聞いていた。
なんでも20年ほど前にカルア魔術学校の中等部を2年で卒業して高等部に早期入学。
そして、高等部では2年生と3年生の時に舞踏会で優勝。
その華々しい栄光から国民たちはダリオスに期待するようになった。
この英雄のようなお方が未来の王国を築きあげてゆくのだと……。
ダリオスが政治に関して無能で失敗したとしても、国民たちからの信頼がそれほど落ちないのはこの武闘会の影響があるらしい。
おれも武闘会に参加するまでは馬鹿げた説があるものだと思っていたが、実際に武闘会の影響を実感して信じるようになった。
話はズレてしまったがダリオスは元々の能力が高い上に悪魔によって強化されているとみて間違いないだろう。
手負いのおれとハリスさんで何とかしたいけど、厳しいかもしれないな……。
そんなことを思っているとダリオスが動き出す。
その体に風を纏い、高速移動をしておれに向かってきた。
おれはダリオスの振るう魔剣に対し、こちらも魔剣で対応する。
魔力を込めた刃と刃がぶつかり合う。
一撃一撃が重い……。
ダリオスはおれと違って体力も魔力も全快だ。
いくらハリスさんと
「やはりお前は強い! まるで昔のおれを見ているようだな」
ダリオスが楽しそうに笑いながら魔剣を振るう。
「あんたと一緒にされるのはゴメンだね!」
おれは思いきり魔力を込めてダリオスを叩いた。
だが、おれの攻撃を読み切っていたのかこちらの攻撃は空を切ってしまう。
ダリオスが一度距離を取ったのだ。
「おれとお前は似ていると思わないか?」
ダリオスがおれにそう告げる。
おれとダリオスが似ている?
こいつは何を言っているんだ……。
理解できないものを見る目で見つめるおれに対し、ダリオスは続けて語る。
「おれたちは同じく七英雄テオの血を引く選ばれし者であり、神に愛され
「それに、おれたちには悪魔を従えるだけの力だってあるんだぜ? おれはお前のような息子が欲しかったよ」
こいつ……気が狂ってるのか?
おれにはダリオスの考えがまったく理解できない。
『世界征服……。これが
ハリスさんが念話でおれに伝えてくる。
確かに、悪魔に操られているわけでなくこれが本性なのだとしたら放置しておくわけにはいかない。
おれはハリスさんの意見に賛同する。
そして、ダリオスは言葉を続けた。
「だからこそ、おれには理解できぬ……。なぜお前は武闘会でそこの女に負けたのにヘラヘラとしてられる。自分の血統を否定させて悔しくはないのか?」
どうやらダリオスはテオの血を引く者が絶対的な勝者でなくては気が済まないらしい。
おれがサラに武闘会で負けたことについて尋ねてくる。
「悪いけど、おれはあんたと違って自分の先祖が誰だとか気にしないタチなんでね。そんなことより、おれは今いる家族を大切にすることしか興味がない。やっぱおれとあんたは全然似てないようだな」
おれの言葉にダリオスはあきれた顔をする。
「そうか……残念だよ。せっかく話が合うかもしれないと思っていたのに。ならば、お前も含めて邪魔者はすべて消し去ってやろう」
直後、悪寒が走る。
ダリオスから凄まじい魔力が溢れ出したのだ。
おいおい、なんだよこの魔力量は……。
到底人間とは思えないぞ……。
ダリオスから感じる魔力は、おれがこれまで戦ってきたどんな人間よりも強い。
おそらく、これが悪魔に力を授かったダリオスの全力。
だが、世界を守るためにも負けるわけにはいかない!!
『なんという悲劇でしょう……。しかし、これも運命。アベル様! いきますよ!!』
こうして、再びダリオスとの戦闘がはじまった。
◇◇◇
圧倒的な魔力を振るダリオス。
それに対して、おれはハリスさんの転移魔法に支えられてギリギリの戦いをしていた。
ダリオス自身も転移魔法を使えるようだが、どうやら慣れていないらしく転移魔法からの奇襲と回避ではこちら側にアドバンテージがある。
おそらく、転移魔法は元々ダリオスが使える技ではなく与えられた力なのだろう。
「そんな
ダリオスは盛大に火属性魔法と風属性魔法を放って笑い出す。
ダリオスの魔法は一発、一発の威力がおかしい。
火属性魔法を躱し、それが地面に直撃すると火柱をあげて燃え上がる。
風属性魔法を躱し、それが地面に直撃すると地面をえぐってクレーターが出来る。
「これは武闘会じゃないんでね! どんな戦いをしたって勝ちゃいいんだよ!!」
おれは強気にダリオスに言い返す。
だが、何か策があるというわけではない。
ハリスさんも女の悪魔との戦いでだいぶ消耗している。
それにエマさんを助けるために回復魔法も使っていた。
いつまでおれに魔力を供給し続けられるかも心配だ。
クソッ……どうしたらいいんだ。
「そうかそうか。これはどんな手を使っても勝てばいいんだったな。それなら……」
ダリオスはおれたちに背中を向ける。
これはチャンスか?
いや、違う……。
おれはダリオスの視線の先にいる人物を見る。
やつの視線の先にはサラとアルゲーノがいた。
サラは相変わらず十字架で縛られて動けない。
魔法も使えないようだし、このままじゃ……。
「どんな手を使ってもよいのなら、勝利のために使えるモノは使わないとな。クックックッ……」
不敵に笑うダリオスの手から業火の炎が放たれる。
『ハリスさん!!』
『はい!!』
おれはハリスさんで念話で転移してくれるように連携を取る。
おれたちはサラとアルゲーノの前に転移した。
そして、全力で防御魔法を発動する。
「
漆黒の壁がおれたちを業火から守り抜く。
しかし、転移魔法からの防御魔法。
とてつもない魔力を一気に消費してしまった。
「はぁ……はぁ……」
おれの息があがる。
だいぶしんどくなってきたぜ。
すると、ダリオスが手を叩いて拍手をする。
「すばらしい! あれを防ぎ切るとはなかなかやるではないか。ハッハッハッ」
声を上げて笑うダリオス。
それに対しておれは怒りが爆発する。
「おい! お前、正気なのか? 自分の息子だって死んでたかもしれないんだぞ!?」
おれには見えていたがアルゲーノは戦闘中のダリオスの目を盗みサラを縛る魔道具を解除しようと必死になって試行錯誤していた。
だからこそ、アルゲーノはサラの側を離れようとしなかった。
それによりダリオスの息子であるアルゲーノも業火に焼かれそうになってしまったわけだ。
おれは自分の息子共々攻撃をしたダリオスにブチ切れる。
だが、そんな言葉もダリオスには届かないのであった。
「あぁ……何を怒っているのかと思えば……。そういえば、お前は家族が大切とか言ってな。心底くだらないことだ」
ダリオスはあきれた顔でおれに語る。
「そこにいる出来損ないの息子が死のうがおれには関係ない。その程度で死ぬようなやつにおれは興味がないからな。それに、子どもなど作ろうと思えばいつでも作れる」
おれは自分の耳を疑った。
そして、ダリオスの言葉に怒りがこみ上げてくる。
「てめぇ……本当に腐ってやがる……」
アルゲーノはダリオスの言葉に
まるで、本当に自分を出来損ないと思って劣等感に苛まれているように。
「家族だろうが役立たずは役立たずだ。おれのためにならない人間はいらないんだよ。例えそれが、自分の父親だろうがな……」
ダリオスがニタリと笑う。
『まさかダリオスのやつ……先代国王を……』
ハリスさんの言葉から怒りが伝わってくる。
確かに、今のダリオスの言葉はまるで自分が先代国王を消したと……。
「無駄な時間だったな。おとなしく死ね……」
再びダリオスがおれたちに向かって業火を放つ。
もう一度あれほどの防御魔法を展開しなければこの威力の魔法は防げない……。
おれは今ある力をすべて使って魔法を放つ。
「
ダメだ……。
これじゃ足りない……。
魔法を発動した瞬間に理解する。
この壁では足りないと。
おれたちは、足りないとわかりながらも
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