44話 突然の来訪者たち

  それはアベルとアイシスが二階の客室へと向かった後に起きた出来事だった——。


  一階に残ったバルバドとカレンはそれぞれ明日に向けて用意を始める。


  「わたし片付けを始めるね。バルバドおじいちゃんも明日早いんだし仕事終わらせなよ」


  カレンがバルバドにそう告げる。


  「わかってるよ……。やることは早く済ませないとね」


  バルバドは何か思いふけったような表情でカレンを見つめる。

  彼の視線の先には、テーブルに並ぶ食器を厨房へ運ぶカレンがいた。


  「この食器類もおばあちゃんとの思い出が詰まってるの? 全部持っていくのは大変じゃない?」


  カレンはそう言いながら厨房の方へと向かって行った。

  バルバドは今までのことを振り返りながら、これからのことを悩み考える。

  そんなときだった。



  コンッコンッコンッ!



  入り口のドアがノックされた。


  かつて、カレンはこの宿屋の看板娘だった。

  カレンがギルドで働くようになってからはこの宿屋の客足も遠のいていったが、それでもポツポツとは利用客はいた。


  しかし、明日にはここを発つということで今日は休みの看板を表には出していたはずだ。

  利用客ではないとすると、急用のあるバルマの住民か、それとも他に行く宛のない旅人か……。


  バルバドは入り口のドアをゆっくりと開ける。

  するとそこには若い四人組の男女が立っているのであった。

  服装は四人ともそれぞれバラバラだがみな身なりのいい綺麗な服装をしている。


  「バルバドじいさん、ここにカレンさんはいるかい?」


  一人の男がバルバドに話しかける。

  白い髪に鋭い目つき、服装は動きやすさを重視した身なりで背中に剣を背負っている。

  見るからに剣士というような男だ。


  「悪いね、カレンはしばらく前にフリントの冒険者ギルド本部へ働きに出てしまったよ。会いたいのならそちらへ向かってくれないか」


  バルバドは丁寧に男の質問に答える。


  「そいつはどうなのかねぇ、実はカレンはギルド本部から逃亡したらいんだよ。だから、あたしらがカレンにゆかりのある場所へ向かわされたわけさ」


  茶色に髪を左右にはねさせている女がそう話し出す。

  彼女は赤のローブに身を包み、頭には魔女の帽子のようなものをかぶっている。

  そして、片手には大きな杖を携える魔法使いの女であった。


  「ちょっと、上がらせてもらうよ」


  剣士の男がそう言ってバルバドを押しのけて宿屋の中に入る。

  それに従って、魔法使いの女、オノと盾を持った戦士の男、そして修道士の女が後に続く。


  「ちょっと待ってくれ! カレンが逃亡した? 何かの間違いだと思うが、それが本当ならばわたしも探そう。今から共にフリントへ向かおう」


  バルバドは四人がドカドカと入ってくるのを止めようとしているが力負けをしてしまい、全く意味をなさない。

  そして、バルバドが恐れていたことが起きてしまう。


  「おじいちゃん、お客さんが来たの?」


  騒がしくしていたために、カレンが様子を見に厨房からエントランスに戻ってきてしまったのだ。

  すると、四人組の男女の顔つきが変わる。


  「まさかとは思ったが本当にいたであるとは……」


  「どうして朝にフリントにいた彼女がここにいるのかわからないけれど、みんなやる事はわかっているわね」


  戦士の男と修道士の女がそれぞれつぶやく。

  そして、四人組の男女がカレンに向かって動き出す。


  「待ってくれ! カレンを連れて行かないでくれ」


  バルバドは四人組とカレンの間に割って入る。

  彼の顔には鬼気迫るものがあった。


  「おじいちゃん……」


  カレンは状況を飲み込みはじめ唖然とする。

  なぜ追手がもうこんな所まで来ているのだろうと。

  そして、自分のせいでバルバドにまで迷惑をかけてしまっているのだと。


  しかし、彼らは止まらない。


  「悪いな……これも仕事なんだ」


  白髪の剣士がバルバドにそう告げてカレンに凄い勢いで迫る。

  人間の身体能力では考えられないほどの速度でだ。


  しかし、彼はカレンの下へとたどり着くことはなかった。

  バルバドが放った土刃アースダガーにより、剣士の男は壁へ吹き飛んだのだ。


  「悪いが……帰ってくれないか」


  バルバドは声を震わしながら彼ら四人組に告げる。

  すると、魔法使いの女が話し始める。


  「まさかとは思ったけど、バルバドじいさん本気かい? あたしらとやり合おうっていうのならこっちも本気でやるよ」


  「あぁ……そうだな。おれたちと対等にやれるとは思えないがな」


  崩れた石造りの壁から先程の剣士が出てきて声を上げる。


  「やるのであるか……」


  「まぁ、ちょっと仕事が増えちゃったけれど問題はないわね」


  戦士と修道士も戦闘態勢に入る。


  バルバドは魔法を使い、崩れた壁から石を引き寄せる。

  そして魔法で石の剣に作り変える。

  そこにさらに魔法をかけて石の剣を強化する。


  「ほぅ……そんなナマクラの剣でおれとやろってか」


  バルバドと白髪の剣士のつるぎが交差する。

  しかし、バルバドは力負けしてしまい吹き飛ばされる。


  「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」


  バルバドが白髪の剣士にやられてしまったのを見てカレンが叫ぶ。

  見ればバルバドの額からは血が流れている。


  そして、修道士の女が戦士の男に魔法をかける。


  「能力強化アビリティエンハンス!!」


  そして、戦士は倒れたバルバドにオノで追撃を仕掛ける。

  しかし、バルバドもそれに反応する。


  無詠唱で土の壁アースウォールを発動し、戦士の攻撃を防ぐ。

  戦士の振るったオノは、バルバドが作り出した土の壁を砕く。


  そして、土の壁が砕かれた瞬間に戦士を土弾アースショットが襲う。

  これもバルバドの無詠唱魔法だ。


  「土の壁アースウォール!」


  屈強な戦士の男にはとても反応できる魔法ではなかったが、それを修道士が発動した土の壁アースウォールで相殺する。


  「助かったのだ、ルメイ……」


  戦士の男が僧侶の女に感謝する。


  「二人が限界か……噂どおりの実力ってか。流石に今のおれにはコウガたち四人の相手は無理だな」


  バルバドは最初に自分を押しのけた剣士に向かってそうつぶやく。


  「ほう……あのバルバドじいさんに名前を知ってもらえているなんて嬉しいですよ、センパイ」


  コウガと呼ばれた剣士がバルバドにそう返事をする。


  「コウガ、ルイーダ、ドウ、ルメイ。お前たちはここらじゃ有名な冒険者だからな」


  バルバドは、剣士、魔法使い、戦士、修道士に対してそう告げる。


  「ふんっ、あたしらのことを知っているのなら用件はわかってんでしょ。なら、どうして邪魔をするのかわからないねぇ」


  魔法使いのルイーダはそう告げる。

  そして、ルイーダがカレンのいる方へと歩みを進める。

  バルバドが足止めできるのはせいぜい二人まで、この四人組からカレンを守ることはできない。


  そうバルバドが諦めかけたときだった。


  「おい!!」


  少年の声がフロアに響き渡る。


  声のした方へ皆の視線が一斉に向く。

  二階へと向かう階段の一番上、そこに黒眼黒髪の一人少年がいた。


  「お前ら一体何してやがる……」


  少年は鬼気迫る顔つきで彼らを見下ろして立っていた。

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