三十四ページ目
痛みを知らない人間は、その人の痛みを分かることはできない。
痛みを知っている人間は、痛みを知らない癖に、あなたの気持ちが良く分かるという言葉が、自分の心を逆なでにしているとしか思えない。
俺はそうだった。
身体の傷は癒せても、心に残った記憶は一生ついて回る。
精神的な傷は簡単には癒せない。
辛い記憶は、いつだって鮮明に蘇る。
俺にとって、学校が監獄であったように。
監獄って、監と獄の二つの文字で出来てるよね。
学校の門をくぐる時、上から自分が見下ろされてるような気分だった。
そのまま、誰かの視線を常に感じて生きているようだった。
周囲の人間がひたすら怖かった。
ただただ、怖くて怖くて…………本当に地獄だった。
そんな時、助けを求めた大人は、助けてはくれなかった。
見放すようにしてくれれば、憎めたかもしれない。
でもできなかった。その大人は、俺以外の子供たちに慕われていたから。
俺と違って、好かれていたから。
それが、否応なく視界に突き刺さって、離れなかった。拭えなかった。
吐き気が止まらなかった。ひたすら気持ち悪かった。
大人の奇麗な部分と汚い部分を目の当たりにする度に、大人という存在が気持ち悪くて仕方が無かった。
大人は嘘つきだった。俺も嘘つきだった。
でも、大人は子供と違った。
本当に、自分は孤独なのだと思い知った時。
それから、俺にとっての大人は……………怪物だった。
何も、何も見たくない。信じたくない。
裏切られるくらいなら、信じない方がいい。
最初から一人の方がいい。
その方が、これ以上傷つかなくて済むのなら。
自分で自分を傷つけて、この辛さと恐怖を慰める方が楽だった。
何かを壊す事は快楽だった。自分が、何かを壊すことは、自分が強いのだと思い込むことが出来たから。
誰かの悪口を言うことは、とても楽しく、気持ちよかった。
自分の中のドロドロした何かが吐き出されて、大人のようにならないで済むのだと、本気で思い込んでいたから。
自分の傷跡を抉ることは、何よりも自分を慰める行為でしかなかった。
身体の痛みが、辛い記憶を覆ってくれるから。思い出さなくて済むから。
怒りに身を任せて暴れることは、とても清々しかった。
一つの感情に身を任せれば、何も思い出さなくて済むから。
逃げて、逃げて、逃げ続けて。
それでも親は、学校に行けと言った。
その時、本気で殺意が芽生えた。憎悪を抱いた。
初めて、家族というものに裏切られたのだと思った。
眠ることは、恐怖でしかなかった。真っ暗闇の中で、人には見えない何かの囁き声が、あの半透明なぼやけた姿を思い出させるから。
助けて欲しかった。家族じゃなくて、たった一人に寄り添って欲しかった。
そんな存在、俺にはいなかった。
努力が無駄だと思った。勉強なんて重ねても、成果は何も現れなかったから。
自分より何かが出来る人を妬んだ。自分には無いものを持っているから。
楽しんでいる人たちを見ていて、殺意が芽生えて、憎悪を抱いて、嫉妬して、怒りが込み上げて………でも、結局は悲しかった。
眠れない夜が明けて、学校に行った時。
門の前の道路で、眠気が唐突に襲ってきた。
頭の中で、自分の声が囁いてる気がした。
ここで死ねば、楽になれる。
自分で死ぬ度胸が無いのなら、誰かに殺して貰えばいい。
そう思って、道路の前を歩き出した。
車が走ってきて、ぶつかる瞬間、止まってしまった。
そのまま歩き続けた。
車のドアが空いて、男の人が怒った顔で死にてえのかと言ってきた。
俺はひたすら謝った。そうした方が、早くこの場を切り抜けられると感じたから。
その時だけは、誰かの視線を感じなかった。とても、安らかな気分になれた。
何度も死にたいと考えて、何度も楽になりたいと考えて。
考える時間ができて、一人で何度も考え続けた。
どうしたら、この苦しみから解放されるのかな。
俺が死んだとして、その時、この家族は泣いてくれるだろうか。悲しんでくれるだろうか。悔やんでくれるだろうか。
俺を死に追いやった現実に、憎悪と憤怒を抱いてくれるだろうか。
テレビのニュースを見ていた時、今日も誰かが死んでいると報じていた。
それを見て、俺は心底どうでもいいと思ってた。
そこで俺は気づいた。ああ、所詮そうなのだと。
人は、自分にとって他人の死など、意に介さない。
誰かの死に理由をつけて、それを自分の生きる糧にするだけなのだと。
他人との心の距離感次第で、人の死は自分に影響される。
だったら、俺が死んだ程度で何になる?
どうせ、俺のようにどうでもいいと思うか、記憶に残ってもすぐ忘れて前を向いて生きるに決まってる。
自分が他人の心をなに一つ動かせないのだと理解した時。
自殺というのは、なんて馬鹿馬鹿しいのだろうと思った。
なんで、俺がお前ら何かの影響で、死ななきゃいけないのだと思った。
結局、誰も助けてくれないのなら、自分が変わるしかないのだというのなら。
俺は、誰かの心を動かせるような人間になってやる。そう思った。
絶対に、俺は幸せを掴んでやる。そう決意した。
はい、自己満です。書きなぐりです。
久々に思い出したくもない記憶を思い出したから、これに書いただけです。
そんだけ。
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