4.習志野ケイスケ


 僕にとって『受験は暇つぶし』以外の何物でもない。




 決して調子に乗っているわけではなく、スキマ時間を埋めるのにちょうどいい、という意味で言っている。


 勉強はそこそこ面白くて、しかも為になる。さらに時間を潰すこともできるから、植物の世話や弟とのゲームがひと段落したときの気分転換に勉強すると、あっという間に一日が終わる。




 植物は僕の趣味だ。


 植物を見たり世話をしたりしていると凄く落ち着く。プラス、ほとんどの植物は動けない。だから光合成によって自分で生きるエネルギーを造り出すなんていう神業を編み出す。

 凄い。尊敬する。




 弟は2歳年下でゲームが上手い。


 勉強、スポーツ、音楽や工作なんかは弟と同い年だったときの僕の方ができていたと思う。でもカードゲーム、テレビゲーム、ボードゲームなど、ゲームと名のつくものは今でも弟の方が凄い。僕は友だちともゲームをやるけど、弟の腕前は遥かに上だ。

 凄い。尊敬する。




 そうやって趣味やゲームを終えて、時間ができると勉強する。新しい知識が増えるのは楽しいし、時間もどんどん過ぎていく。


 で、空き時間を埋めるためにやったことが模試や入試で数字として反映される。実に無駄がなく、かつシンプルでいい。




「高国はそんなに甘くないぞ」


 そんな話をよく聞く。昔より科目数も多いし、入試を進めていけば面接や小論文、一泊二日のグループ入試まで追加された。


 もちろん他の人を見ていると、高国は一筋縄ではいかないんだろうというのも理解できる。


 必死に考えて、解いて、覚えて。それで合格したときや国家ランクで最上位クラスに認定されたらうれし泣きすることもあるだろう。




 きっと僕の頭が特別なんだと思う。実際、教科書の内容や解いた問題、見た英単語や先生が披露する豆知識などほとんど覚えている。


 図形の問題ではどこに補助線を引けばいいかうっすら見えるような気がする。読解問題だと該当する文が大きく見える感覚がある。ネクストではないから特殊能力ではないけど。

 本当になんとなく。




 ネクストと言えば、国を挙げて彼らを保護したり囲い込みしたりしている。


 同時に、一芸に秀でている人たちも「高国」とは別に入試をして集めている。「特化型入試」というものだったはずだ。


 サッカー、将棋、ボクシング、音楽などあらゆる分野で活躍している人を世界に通用するよう専門の高校へと勧めているのだ。きっとネクストと同じ価値を持っている人たちだと判断しているからだろう。


「習志野君はどう思いますか?」


 そんな風に意見を聞かれたら間違いなくこう答える。


「僕も同意見です」


 と。


 ネクスト能力で1キロ先の針の落ちる音を聞けるようになるネクスト能力も確かに凄い。


 けれど、100メートルを十秒かからず走れる人、水中で四分以上呼吸を止められる人、一日中絵を描き続けられる人、誰よりもゲームが上手な人だってネクストに負けず劣らず価値がある。

 これも一種の超能力だと思う。




 などと考えながら国語を解いていたら、残り時間二分ですべて解き終えることができた。隣の女子は途中からページをめくるスピードが上がっていた。さっきは受験票がないって叫んでいたのに、急に雰囲気が変わった。隠れネクスト能力者かもしれないな。


 ネクストはあってもなくてもいいけど、どんな感覚なのかは気になる。


 15歳まであと二年。僕もネクストに目覚めるだろうか。




 世間ではこう呼ばれている。


「15歳はネクストに目覚めるラストイヤー」




 何故かはわからないみたいだが、ネクストに目覚める年齢は98%以上が12歳から15歳。それより若くても年を取っていても報告例はまれだ。


 だから政府は中学受験でも大学受験でもなく、ネクスト覚醒に合わせて高校入試を改革したという話もあるくらいだ。




 優秀な者、特殊な能力を持つ者、一芸に秀でている者を早めに育成し、この国を再び大国にするために。どうやってネクスト能力者たちを活用するかはわからないが、とにかく育成したいらしい。




 ただ、現実はそう上手くいかない。


 この国には一万人のネクストが報告されているけど、実際はその五倍くらいネクストがいると言われている。


 多くの人が自分の能力を隠している、もしくは国に報告していないということでもある。


 まあ僕がネクストになっても隠すだろうから当然かな。




 考え事をしながら問題を解いているているうちに国語が終わり、数学が終わり、社会が終わる。昼食や休憩時間は植物図鑑を見る。




 僕の入試初日は日常と大して変わることなく過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る