一語一会

鯵坂もっちょ

ランダム単語ガチャ

ヨーグルト

「ヨーグルトが『ヨーグルト』って名前してるの、奇跡だと思うんだけど」

 目の前に座った市川いちかわ渚紗なぎさが子供のように目を輝かせて言う。

 わたしは到着したばかりのヨーグルトアイスを食べようとしているところだった。

 スプーンを持った手を止めざるを得なくなる。

 彼女が突拍子もないことを言い出すのは日常茶飯事だったから、今日もまたなんか言ってるわ、くらいにしか思わなかった。

「どういうこと?」

 でもここでちゃんと聞き返してあげるところは、我ながらずいぶん優しいな、と思う。

「だってヨーグルトってグルグルと混ぜて食べるじゃん。グルグルと。ヨーグルト。語源とか全然関係ないはずなのに、こんなに名は体を表わしてるなんて奇跡だよ」

「確かにそうかもね」

 何も考えずに同意すると、渚紗はフフン、と満足げに表情を綻ばせた。

 その容姿の良さにうっかり見とれてしまう。その表情を繋ぎ留めたくていつも軽率に同意してしまうけど、今回のはちょっと考えると大して奇跡でもない。

 ヨーグルト混ぜて食べることなんてそんなにある? あんたの家だけじゃない?

 それにグルトはいいけどヨーどこいったんだよ。ヨーはよ。

 やっぱりちょっと、渚紗のこと甘やかし過ぎなんだよな、と思う。

「プリンアラモードのお客様」

「はい!」

 明朗快活そのものみたいな声で渚紗がプリンを受け取る。

 元はプディングだったのにプリンっとしているそれの名前のほうがよっぽど奇跡だろ、と思ったけど、渚紗は気づいてなさそうなので言わないであげることにした。

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