約束の場所で鉄を匂う②
翌日の朝、王国騎士団は王国の東に位置するモートブロッツ荒野へと進軍した。
「何事も無ければ良いんだが...」
ヴィルは、願うことしか出来ない。
数日後、戦いが始まった。
戦いは5日間に及んだ。そして、出陣から数日がたったある日、王国にある一報が入る。
[我ら、敵軍を退けたり。]
次の日、騎士団は王国に帰還した。その日の王国はお祭り騒ぎとなった。
翌日、国中が未だ湧き上がっている中、ルインが店を訪ねてきたが、
カランカラン
「ん?、生きてたか!ルイン!」
「あぁ。俺だけな....」
ヴィルは再会を喜んだが、ルインの顔は暗い。
「どうした?」
「俺は...、また守れなかった...、サムを、他の奴も...」
「戦いなんだ。死ぬ奴は死ぬ。お前はよくやったよ。さぁ!修理しに来たんだろ?」
ルインは頷き、鎧と剣を渡す。
「明日の夕方には...」
「あぁ。」
と言い残しルインは店を出ていった。
「少し配慮に欠けたか...」
受け取った鎧は、鎧と呼べるか怪しいほどにボロボロだった。
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「父さん。ルインさんは?」
「また戦いにいった。」
「また!?、この前行ってきたばかりじゃ...」
「あぁ...」
その後のルインは、何かに取り憑かれたように連日、出陣していた。
「それに、なんだこれは...」
渡されていた予備の戦闘用の鎧に目を落とすと、大きな傷が目立つ。その中には、一歩間違えば致命傷となるような傷があった。そして何よりも、
「臭うな...」
鎧の鉄とは別の"鉄"の臭いがあった。
「ルイン...、死に急いでいるのか....」
ある日、鎧を取りに来たルインに声を掛ける。
「次、決戦なんだろ?今まで以上に、綺麗にしといてやったぞ」
ヴィルは、更に続けた。
「前にも言ったが、守れなかったのはお前のせいじゃない。出来の悪い道具をお前やエリー、サム.....、ほかに死んでいったやつに渡している俺が悪いんだ。だから....」
「それは!それは違う!お前の"腕"は確かだ!それを...、それなのに俺は...」
その言葉にヴィルは少し怒りを含ませながら言った。
「なら...、必ず帰ってこい!お前は、王国最高の剣聖だろ?しっかりしやがれ!エリーやサムの為にも...」
ルインを元気付けるよう言ってやるヴィル。そして朗らかに言った。
「それと、俺の評判の為にもな!使っている奴が帰って来ないと、誰が俺の"腕"を広める?だから死に物狂いで帰ってこい!」
「そう、だったな、そうだな!必ず帰って来て、お前に仕事を持ってきてやるよ。」
そう言ってルインは店を出た。ヴィルはその背中を見送り、いつもの仕事に就く。
後日、ルイネス王国は戦いに勝利し、王国の次に大国のハモンズ帝国と、東アガート王国との連合国と和平を結んだ。
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カーン カーン カーン
大国ルイネス王国の商業区、その一角で鉄を打つ音が鳴り響く。
王国指定の札が掛かった店の中で男が二人、喋っている。
「また明日の夕方に!」
「あぁ、じゃあ頼んだ。」
カウンターの男は受け取った鎧を見る。
「相変わらず綺麗なもんだ。」
その鎧は傷一つ無く、鎧本来の鉄の匂いだけがあった。
「父さん、買い出しに行ってくるね。」
「おう、気を付けるんだぞ。ジール。」
はい。と言って、銀髪の青年は出ていく。
それと入れ違うように、客が入ってくる。
その日は、雲一つ無い晴天だった。
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