届かぬ注意

とある高校で全校集会があった。


もうすぐ夏休みを迎えるというその高校の体育館には全校生徒が集まっていた。先生方が順番に体育館の壇上に立って夏休み前にいろいろな話をしていくのだが、浮かれている生徒たちは当然そんな言葉に聞く耳なんて持たない。


どの先生が話してもお構いなしにざわざわと私語が続いていた。それは生徒指導の先生が壇上に上がっても変わらず、依然として好き勝手話続けていた。


そんな中、私はきちんと先生の言葉に耳を傾けていた。


生徒指導の先生は話し出す。


「最近皆さん気の緩みか知りませんが、人の話を聞いていない人が多い! もっとしっかり話している人に注目して聞き耳を立てるようにしないと……」


なるほど、今日の注意の内容は”人の話を聞かない人の話”か。


……だが待ってほしい。”人の話を聞かない人”は話を聞かないのだから、”人の話を聞かない人の話”も聞かないのではないだろうか。結局その”人の話を聞かない人の話”を聞いているのはきちんと”人の話を聞いている人”なのではないだろうか。


つまりこの注意事項は該当者には届かない仕組みになっているのである!


先生は先ほどからひたすら”人の話を聞かない人の話”をしているが、相変わらず体育館の中は私語で賑わっていた……。

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