子猫物語
赤城ハル
第1話 狩るということ
まだだ!
近付いてくるまでじっと待つんだ。
今、僕はバッタを狙っている。
そのバッタは跳ねながら少しずつこちらに近付いてきている。
後少し!
…………
ん? あれ?
なぜかバッタは止まってしまった。
どうして?
目が合った?
というか目はどこ?
バッタは止まったままじっとしている。
もしかして、逆にこれはチャンスなのか?
でもこの距離は難しい。
どうする?
動く?
どうしよう、どうしよう。
…………よし! こうなったら!
僕は意を決して駆けた。草を掻き分けてバッタへと向かう。
そして後ろ足を使って地面を跳び、前足の爪を出してバッタに跳びかかる。
いっけぇぇぇ!
しかし、僕が駆けた時にはバッタは羽を広げ、僕がバッタへ跳びかかった時には羽をはばたかせて上空へと飛び立っていた。
爪はむなしく空を狩る。
でも僕はあきらめず着地した瞬間、Uターンしてバッタの方へ高く跳び上がった。
けれどまたしても爪は空を狩るだけだった。
ううっ!
◇ ◇ ◇
次は後ろからだ。
ターゲットはさっきと同じ種類のバッタ。
爪を引っ込めて肉球で地面を踏みじわじわとバッタに近付く。
今度のバッタは危機感がないのか、それとも能天気なのか止まったままで動かない。
これはいける。
僕はそう確信してゆっくり近付く。
音を立てず。
よし!
僕は一気に体をバネのように動かし、跳びはねる。
だが、バッタも同時に跳ね、草むらへと消える。
バッタは草と同じ色をしているので見分けが難しい。
僕はがむしゃらに草むらへとダイブした。
捕れたか?
僕はゆっくりと体を起き上がる。
その時、少し離れたところからバッタが飛び立った。
失敗。
ううっ!
なかなかエサが捕れない。難しいよ。
◇ ◇ ◇
僕は狩り場を変えた。
しかし、良い狩り場というものが分からない。
実は今日が初めての狩りなのだ。
いつもはお母さんが捕ってきてくれるのだけど、今日はお母さんが体調が悪くて寝込んでいるので僕がエサを捕りにきたのだ。
エサを捕ってお母さんを助けてあげるんだ。
きっといっぱいエサを食べたらお母さんも元気になるに違いない。
でもエサが捕れない。
なかなか見つからないし、捕るのもできない。
お母さんや皆はどうやって捕ってるんだろう。
こつとか聞いておけば良かったな。
『カー、カー、カー』
やばい。
カラスだ!
子猫の僕にはカラスは天敵。
隠れろ!
僕は茂みの中に隠れる。
そしてカラスが行ったことを確認して茂みから出る。
ふうー。
僕はカラスとは別の方へと向かった。
アスファルトと呼ばれる人間が作った地面に入った。
ここからは人間が多く住むエリアだ。
もちろん虫は少ない。けれど果実のなる木や生臭い袋が多い。
ただカラスも多いのです。
カラスに注意しながら人間の家に近付きます。
僕は塀を越えて庭に降り立った。
果実のなる木を僕は探す。
おいしくて簡単に取れるのはグミの木です。
しかし、小さい庭なのか木が少なく、すぐに果物のなる木がないことが判明。
僕は別の庭に向かいます。
果実、果実!
ありません。
次です。
果実、果実。
……もうグミの木でなくでいいから。
しかし、ありません。見つかりません。
落ち込んで溜め息をついていると、
『カー』
カラスの鳴き声が近くで聞こえました。
驚いて僕は跳ね上がりました。
果物を探すことでカラスのことを忘れていました。
カラス! どこ?
『カー』
カラスはすぐ近くの木の枝に立っていました。
僕はすぐに離れます。
するとカラスは木を渡って僕を追いかけます。
なんでついてくるんだよ!
ついてくるな馬鹿!
『カー、カー』
けれど、いったいどういうことでしょうか?
鳴くだけでカラスは襲ってはきません。
僕は走ります。がむしゃらに。
逃げろ! 逃げろ!
しかし、カラスは僕を追いかけて、高いところに止まっては何度もうるさく鳴きます。
すると次第にカラスが増えました。
そしてカラスたちは鳴くだけでなく、バサバサと音を立てて翼を振ります。
どうしよ?
増えてる!
仲間を呼んだんだ!
どうしよ? どうしよ?
食われちゃうの?
嫌だ!
嫌だ! 逃げろ!
僕はがむしゃらに走る。
後ろを追ってきたカラスが先回りする。僕は右に曲がって通路の細い道を進む。
カラスが入れない道は?
どこだ?
カラスが僕の前に止まった。
今までは高いところに止まっていたのに今は地面に立っています。
『ニャー!』
僕は威嚇します。
『カー、カー』
カラスは僕よりも大きい声を出します。
もう一匹が近くの塀に止まります。
鋭い嘴が僕へと向いています。
駄目だ。
助からない。
嫌だ!
誰か!
誰か助けて!
『ニャー! ニャー!』
カラスが襲ってきました。
まずは後ろのカラスが。
足の爪を突き立ててきます。
僕はぐるぐると逃げ回り、爪避けようとします。
しかし、相手は狩り慣れているのか器用に低空を飛びながら爪を突き刺してきます。
痛い!
やめろ!
今度はもう一匹のカラスが近付いてきました。
駄目だ! 助からない。
しかし、もう一匹は僕を襲っていたカラスを襲います。
そして、
『シャー!』
と鳴きました。
カラスではありません。
カラスと同じ黒色ですがカラスではなかったのです。
それは僕と同じ猫でした。
『シャー!』
黒猫はカラスの目に爪を突き立てます。
『カー、カー、カー』
カラスは悲鳴を上げて、逃げるように飛び立ちます。
黒猫は前にいるカラスに、
『シャー!』
と威嚇します。
前にいたカラスは翼をはばたかせて飛び立ちます。
『カー、カー』
助かったのでしょうか?
いえ、助かったのです。
《あ、あの、ありがとう》
僕は黒猫にお礼を言いました。
黒猫はこちらに振り向き、僕の頭を叩きました。
《馬鹿か! ガキが一人で何してやがる。カラスに食われたいのか!?》
《ち、違います》
《あん? 親はどうした?》
《お母さんは病気で寝込んでて。……それでエサを探しに。そしたらカラスに見つかって》
黒猫さんは物凄く不機嫌な顔になります。
《ご、ごめんなさい》
《だったらどうしてこんなところにいる? 狩るなら林か森でやればいいだろ。ここに虫がいるとでも?》
《人間の庭ならグミの木があるかなって》
《なるほど》
黒猫さんは溜め息を吐いて、首を振ります。
《ついてこい》
《へ?》
《案内してやる》
と言って黒猫さんは歩き始めました。
《ありがとうございます》
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