第6話 また会ったね、パイプ

 そのあとサーシャは俺のために下からご飯を持ってきてくれた。一階が酒場になっている宿屋らしい。


「はい、あーんして」


 サーシャがスープにつけた黒パンを俺の口元に運ぶ。少し気恥ずかしいが、俺はそれをぱくぱくと鳥のひなのように食べる。何日間も眠っていたためお腹が空いていたようだ。


 サーシャはスプーンを使わず手でパンを俺に食べさせてくるので、たまにサーシャの指が俺の舌にあたる。この質素なメシが美味しく感じるのはそのためだろうか。


「ふふ。いっぱい食べてえらいわね。そうだ、ママって呼んでもいいのよ」


 こいつは何を言っているんだ……それはさすがに恥ずかしい……見た目は完全にガキだが、俺は実質30歳だし、そんな大のおとなが


「まんまー!!」


「うふふ、もっといっぱい食べましょうね」


 欲望には勝てなかった。30歳なんてまだ子供だったのかもしれない。きっとそうだ。


 そんなこんなでたらふく飯を食って腹を膨らませた俺に、サーシャは話しかける。


「そういえばリンくん、ゴブリンに襲われた時にどこからかこの武器を取り出してなかった? 魔法……なのかしら? はじめて見る魔法だけれど」


と言って壁に立てかけてあった俺のパイプを手に持つ。素材や形が珍しいのか、まじまじと見つめている。


「それが、僕にもよくわからないんだ。なんかとにかく夢中で……気づいたらこの頭の穴から出てきたんだ」


「もう一度できる?」


「やってみる」


 俺はパイプを生み出した時のことを思い出す。クソゴブリンをぐちゃぐちゃにぶっ潰したくて武器が必要で、パイプを心から欲していた時の気持ちをトレースする。


 むむむ……結構難しいかもしれない。パイプパイプパイプ……


 にょきにょき


「わ! なんか出てきた」


とサーシャが驚く。


 どうやら成功したらしい。また俺の頭からパイプが生えてきたようだ。俺はそれを引き抜いてサーシャに渡す。


 パイプを生み出しても特に体も疲れないようだ。いくらでも出せるのだろうか? そうだとすると武器としては便利かもしれない。


「ところでこれ、頭の中に戻すことはできるの?」


「それは多分むり……かも。頭の穴に何か入れるのは……なんか、すごく怖い」


 実際この穴がどうなっているのか分からないのだ。穴に何か入れたら脳みそに到達して死亡とか余裕であり得る。なんでパイプが出てくるのかは謎だが。


 これが胡散臭い神の言っていたチートなんだろうか? 頭からパイプを生やす能力か? だとしたらなんか、微妙過ぎる……それなら普通に魔法全系統使えるとか、回復魔法使えるとか、そういうのがよかった。


「そう、何かはわからないけど、便利な魔法ね。怪我が治ってから弓矢の扱いを教えるつもりだけど、矢も作り出せたら便利そうね」


といいながらサーシャは俺が生み出したパイプをベッドの下にしれっとしまう。


 ……処分に困ってそこに隠したんじゃないだろうな。なんて自由な。


「ねえ、矢も出せるかやってみてよ」


「矢か、ちょっとやってみるね」


 サーシャは俺に話しかけながら、大きなタライを準備して、魔法で水を張ると、そのまま服を脱いで体を布で拭き始めた。


 矢か、できるかな……。矢尻とか羽とか違う素材が混じってるけどいけるのかな? パイプは全部同じ素材の単純なものだしな。とりあえずやってみるか。矢、矢、矢、や、え……? サーシャはなんで脱いでるんだ?あまりにも自然に裸になったので一瞬そういうものかと受け止めてしまった。は、初めてみた……女の人の裸……ナマで……。ぷるんぷるんだ……。俺が子どもだから気にしていないんだろうか。もう今さら騒ぎ出すのもなんか変だし……俺もなにも気にしてませんけど? という体でいくしかない。俺は子どもだし、気にしたらダメなんだ。ただ体を綺麗にしてるだけだし、当たり前のことなんだ。いくらお尻がつるんぷりんとしていても気にしたらダメなんだ。そ、そうだ、矢に集中するんだ! 矢、矢、矢、矢……


 にょきにょき


「あはは、また同じ棒が出てるよ、リンくん。矢はむりなのかなあ」


 にょきにょきにょきにょき


 占めて36本のパイプを生み出した俺は、期せずしていくらでもパイプを生み出せることを証明してしまった。


 ちなみにその大量のパイプたちは翌日サーシャが鍛冶屋に売っ払って、軽いのに丈夫ないい鉄だとそこそこの金になったらしい。

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