第4話 ありがとう、誰か
俺の脳内はアドレナリンで溢れ、道中でもし魔物と出会ったらどうするか、と考えていた戦略も何もかもぶっ飛び、とにかくゴブリンを木の棒で叩きつけることしか考えられなかった。
ゴブリンのショートソードが俺の左肩を抉る。興奮で痛みも感じない俺は、構わずゴブリンの頭を木の棒で殴打した。
ゴブリンが倒れる。俺は覆い被さって何度も何度も木の棒で叩きつけ続けた。
「ハァ、ハァ……」
どのぐらい殴り続けていただろうか。ゴブリンの頭が原形を留めなくなり、体力の限界が訪れたところで俺は手を止めた。いつのまにか木の棒も折れ、俺の手の皮も剥けている。最初にやられた左肩が熱い。
ゴブリンの方は潰れた空き缶のような頭をして静かに横たわっている。もうピクリとも動かない。
「……か、勝った」
俺はその場にへたり込み、大きく息を吸う。
なんだ、やればできるじゃん、俺。俺は生きてる。生きてるぞ! 怪我もしたし、みっともない勝ち方だったが、勝ちは勝ちだ。
「ははは! よっしゃ! やってやったぞ、このやろう!」
と、つい一人喜びの声を上げた。
「ギヒ」
「ギヒギヒ」
後ろからしわがれた声がし、咄嗟に振り向くと2匹のゴブリンが棍棒で俺に殴りかかってくるところだった。
……っ! ふっざけんなよ。
せっかく勝ったと思ったのに、何だこれは。このクソゴブリンは群れだったのか。俺はバカスカと殴られながら悪態をつく。
とにかくここから逃げ出したいのに、動くこともできない。蹲って無意識に頭を守り、痛みに耐える続けることしかできなかった。
ゴブリンはギヒヒッと笑って涎を撒き散らしながら俺を棍棒で殴り続ける。
くそがくそがくそが!
俺はこのまま死ぬのか。嫌だ。でも痛い。一瞬でも転生して楽しいなんて思ったのは間違いだったのだ。やはり俺には何の面白みもない退屈な人生がお似合いだったのだ! そうすればこんな思いをすることもなかった。開始5秒で死ぬ羽目にもならなかった。
いや、前の人生でも死んだわ。あの落ちてきたパイプで。関係なく死ぬ時は死ぬのだ。
俺は諦観と共に、俺をこんな目に合わせているゴブリン共に怒りが湧いてきた。
どうせ死ぬのならこのゴブリンどもも道連れにしてやりたい。俺のようにパイプで脳天を突き刺して殺してやりたい。殺す殺す殺す、殺してやる———
と、決意した時、頭を守っていた手に何か冷たいものが触れる奇妙な感覚があった。
……これは、パイプだ。何故かは知らん。だが俺の頭に空いた穴からパイプが生えているのだ、と一瞬で理解した。
俺は即座に頭からパイプを引き抜き、ゴブリンに向けて振った。地面に這いつくばりながらの力が込められていない攻撃だったが、片方のゴブリンの眉間に直撃して2匹のゴブリンは驚きながら俺から距離を取った。
———同時に、何処からともなく射られた矢が、ゴブリンの頭を射抜く。
「ゲブゥ」
2匹のゴブリンはそのまま崩れ落ち、生き絶えた。
「間に合ってよかったわ」
そう言いながら俺に向かって歩み寄る誰かの足音を聞きながら、俺は意識を失った。
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