第2話 はじめまして、異世界転生

「そんなわけで君は今にも死にそうなわけだけど、気分はどうだい?」


 よく分からん人型の存在が言う。

 なんだこいつ?男のようにも見えるし、女のようにも見える。俺に似てるような気もするし、似てないような気もする。


 俺はむくりと起き上がる。ふと頭に手をやると、左こめかみの上にパイプが突き刺さったままだった。2メートルくらいあるのに重みは全然感じないし、痛みもない。


「俺は……生きてるのか?」


 辺りを見回すと、何もない真っ白な空間に俺はいた。よく目を凝らすと空間全体が虫のように動いている。白いビーズの海を泳ぐとこんな感じになるだろうか。


「半分生きてるよ。半分死んでるけど」


と人型は言う。


「リンくん、今君には2つの選択肢がある。一つは異世界転生、もう一つは元の世界での復活。どっちがいい?」


 よくネット小説もだらだらと読んでいたが、まさか自分がこんな状況に陥るとは。あの流行りの異世界転生かよ。そうするとこいつは神か何かか?


 こんなにも訳の分からない状況だというのに、俺の頭はひどく冷静だったし、なぜかこの状況に違和感を覚えなかった。夢の中では何が起きても異常とは思わないように、俺は順応していた。


「お前は神なのか?」


「違うけど、まあそう思ってもらっても構わないよ。で、どっちがいいの? まあ大体答えはわかるけどさ。だって君、元の世界でクソで描いたクソみたいな人生送ってたし。ただ死んでないだけって感じの人生をさ。何が面白くて生きてるのか結構不思議だったよ。人ってこんなに意味ない人生を歩めるんだなって意味では面白かったけどさ、ははは」


 胡散臭いやつだ。俺がずっと思ってたことを言ってくるところがいちいち癪に触るな。


「ま、君の答えは分かってるからね。もう異世界に転生させちゃうね。」


「ちょっとま」


 神らしきものが俺の言葉を遮る。


「お約束のチートもつけとくよ。とびきりいいやつをさ。どんな力かは……まあ向こうに行ってからのお楽しみってことで。あ、それから異世界に行ったら君にやってもらいたいことがあるんだ。なに、簡単なことだよ。みんな普通にやっていることさ。君にはちょっと難しいかもだけど。」


「なんだ、そのやってもらいたいことって……?」


 神らしきものはわざとらしくたっぷりと間をとって、こう言った。


「君に、幸せになってほしいんだ」


 そいつは、本心でそう言ってるように俺には思えた。


 胡散臭いやつという印象は拭えないが、そんなに悪いやつでもないのかもしれないな、と考えたところで俺の視界は真っ暗になった。

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