他国にて あなたを思う
ドルセイ家に到着してから数日が経ちました。
到着してから起きたことに関しては
叔父であるロイス様はお母さまの指導を今も受けているようで、食事の際に見かけると少しやつれたような表情をしています。オイガ様はどうやら教育係が変わったようでたまに愚痴をこぼしては叱られている所を見かけるようになりました。
到着した時に寝込んでいると言われていたお母さまの御父上はどうやら毒なのか薬なのか詳しくはわかりませんが、それを意図的に飲まされていたようです。それに気づき服用をやめると、症状の悪化が無くなったようです。
さすがにここまでしてくるとは思っていなかったようで、お母さまは王城に仕えているお母さまの兄弟である他の叔母さまや叔父さまの伝手を使って、ルクシアナ国内に警告とグラハルト商国の関係者が国内に入って来られなくする法を作るよう動いているようです。
これで少なくとも私たちが住んでいたベルテンス王国のようにはならないでしょう。本当に良かったです。
さらに1カ月程時間が過ぎました。
我が家の伝手によって10日に一回くらいの速さでベルテンス王国の内情が伝わって来るのですが、状況の改善は見られずむしろ悪化しているとの事。
しかも、最後の砦と思われていた第2王子も腐敗側に回ってしまったようです。これではますます我が家に帰る目途が立たなくなりました。
ああ、ドルスはどうしているでしょうか。
一応王都にある我が家には他にも家の維持を目的として残っている使用人は居ます。ですが、家の維持程度ではそこまで人員が必要という訳ではありませんし、残っている使用人に対してはっきりと給金が減る旨を伝えていますので、もしかしたらもう我が家には居ないのかもしれません。
それはとても悲しいことではありますが、生きる上でお金という物は必要な物ですから仕方が無いことだと思います。出来れば残っていて欲しいと思うことは私の我が儘なのですけれど、居なくならないでくださいね、ドルス。
ドルセイ家に来てから3カ月が経ちました。
ベルテンス王国の内情は悪化の一途を辿っています。もう殆どの王政が成り立たなくなっているようです。これでは国を立て直すどころか壊して作り直した方が良いとお母さまが零していました。おそらく王国への帰還は絶望的ではないでしょうか。
お母さまがお父様に向けて手紙を書いていましたが、おそらく王国を離れるようにとの進言でしょう。このまま王国内に留まれば王政の崩壊と共に共倒れになってしまいます。それに背後にはグラハルト商国が居ることがわかっているので、それに巻き込まれない様にと言う意図もあるかと思います。
私もですが、お母さまは王国への帰還は不可能と判断しているようなので、我が家に残してきた使用人をこちらに寄こして良いかと聞きましたが金銭的にも立場的にも無理だと言われてしまいました。わかってはいましたが残念で仕方がありません。
ああ、もうドルスには会えないのでしょうか? できればもう1度だけでも手を繋ぎたい、いえ一目見るだけでも構わない。それでもいいのでもう1度だけドルスに会いたいのです。
そう思ったところで会えないことは理解しています。私はここから動くことは出来ませんし、ドルスも王国を離れることは難しいはずですから。
しばらくして王国で反乱が起きたという話が届いてきました。王政と反乱軍が争い、結果は反乱軍が勝利したという話です。反乱軍の背後にはアルファリム皇国が居るとのことですけど、少なくとも元ベルテンス王国の王政よりは良い政治をしてくれることを願います。そうすれば、私は我が家へと戻ることが出来るのですから。
反乱が収まって半月ほどが経ちました。本当でしたら直ぐにでもベルテンス王国に戻りたいところでしたが、反乱の影響で王国内が混乱しているとのことだったので状況の確認が済んで問題ないと判断でき次第戻ることに決まりました。
「お母さま、ベルテンス王国からの報告はどうなっているのでしょうか?」
「まだ、返事は来ていないわ。領地の方まで確認してから戻るように指示してあるから早くても後半月は掛かるわね。リオナが早く戻りたいと言うのはわかっていますが、反乱により王国内が荒れている以上、安全の確認は万全にしなければなりません」
「…わかりました」
あと半月も掛かるなんて。もう少し早く返事が来ないでしょうか。できれば王都にある家の状況だけでもわかればよいのですけれど、そうもいかないのでしょうね。
さらに半月が経ちました。まだ王国からの返事は届いていないようです。ですが、別口の情報として王都の混乱は落ち着き始めたとのことなので、近い内に王都の家へは戻れると思います。
「リオナ。ベルテンス王国へ戻る日程が決まりました。ただ、王都の家は確認をした後に直ぐ領地の方へ向かいます。おそらく王都での滞在時間は長くとも半日になります。そのように覚えておきなさい」
「わかりました。…ですが、どうしてそのまま領地へ向かうのでしょうか」
「王都の混乱は収まりましたけど、王都としての機能はまだ回復していないのよ。だから生活するにはまだ難しいわ」
「そうですか。わかりました」
生活するのが難しいという事は家に残っていた使用人はどうしているのでしょうか? いえ、貴族が生活するのが難しいという事なのかもしれませんね。
ああ、ようやくドルスに会えると思うと気持ちも軽くなりますね。早く出発しませんでしょうか。出発まで数日ありますけど、もどかしく思います。
ベルテンス王国へ戻る日が来ました。私はもともと持ってきたものは少なかったので直ぐに出発の準備が出来ましたけど、どうやらお母さまは領地の支援のために持っていく物が増えたために少し準備に時間が掛かっているようですね。
これは私も手伝った方がよろしいでしょうか…いえ、それは使用人にさせるべきですよね? 私が手伝うと余計時間が掛かる気がしますし、仕事の邪魔をすべきではありませんね。
馬車を走らせること数日、ベルテンス王国の領地に入りました。周りの景色は出て行った時とそう変わりはありませんね。反乱の多くは王都でしか起きていませんので当たり前ですけど。
王都に近づくにつれて、壊れた建物がいくつか見られるようになりました。しかし、どうやったらここまで建物が壊れてしまうのでしょうか?
「酷いものね」
「お母さま。何故ここまで建物が倒壊しているのでしょうか?」
「王政側がグラハルト商国から仕入れた爆弾を使ったらしいわ。仮にも王都を守る側だと言うのに何故自ら壊すようなものを使ったのか、理解できないわね」
なるほど。爆弾ですか。確か鉱山の採掘に使う物でしたね。それならばあそこまで建物が倒壊しているのも理解できます。
そしてそろそろ家の近くまで進んできました。この辺りは結構な建物への被害が広がっています。これも王政側がやったことなのでしょうか。もうすぐ家に着くのですけど、そこはかとない不安が襲ってきました。もしかして我が家も同じように被害に合っているのかもしれません。
そして、家の前に到着して私は茫然としてしまいました。
私の目の前には元が我が家であった瓦礫の山が映っています。被害に合っていたとしても、まさか原型もとどめていないとは想像していなかったので言葉も出ません。
いえ、残っていた使用人たちはそうなったのでしょうか! まさかがれきの下敷きになってしまったとかではありませんよね!?
確認のためにお母さまへ問いかけようとそちらを向くと、お母さまの表情は悲痛な物になっていました。
これは、まさか…そう言うことなのですか?
「お母さま」
「生き残りは居ないそうよ」
お母さまは私が聞きたいことを理解していたのか、問いかけるよりも早く言葉を返してきました。
それを聞いて、衝撃のあまり私は何も考えることが出来なくなりました。
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