第19話 皇子の気にしている事


「そういえば、皇が言っていた皇子が気にしている事とはどのようなことなのでしょうか」

「ああ、それは…そうだな。ミリアさんの持っているこの国、アルファリム皇国の印象はどのような物でしょうか?」

「それはこの国に来る前の…いえ、正確な情報を得る前と言うことでしょうか?」

「ああ、そうだね」

「それでしたら、まあ、あまり良い印象はありまでしたね。悪辣国と呼ばれていましたし、奴隷を使って戦争をするとか、侵略した国を使い潰すなどいろいろありましたからね」


 まあ、ミリアは私が中に入って来る前にはそれが嘘だと気付いていたみたいだから、おそらくしっかりと調べればわかる程度の嘘なのだろうけど。平民とかはそれを調べる手段がないから、特別な何かが無い限りその印象は変わらないだろう。


 と言うか、なるほど、皇子はこの印象を気にしていて、それを払拭したいと言うことか。確かに国の上に立って、しっかりと国を導けばその国にあるアルファリム皇国の印象は改善するかもしれない。それも上手く行けば周辺国にもそれが広まる可能性は大いにあるわね。

 

「まあ、ミリアさんが持っていた印象がアルファリム皇国に対する大多数の人が持つ印象なのですよ。ただ、アルファリム皇国はその印象にあるようなことは一切やっていません。まあ、周辺国に対して侵略をしているので完全には否定することは出来ませんが」

「おそらくグラハルト商国の情報操作…と言うよりも印象操作ですね。それによるものだと思いますけど、一度ついた印象はそう簡単に無くなることはありませんからね」


 グラハルト商国が何で自国よりも大国であるアルファリム皇国に喧嘩を売っているのかはわからないけど、おそらく侵略予定の周辺国にアルファリム皇国へ逃げづらくするためと言う理由もあるとは思う。

 もしかしたらアルファリム皇国を孤立させてから、最後に侵略するつもりなのかもしれないけど、そうだとしてもさすがに上手くいかないと思うけどね?


「父上や他の兄弟はあまり気にしていないのだけど、私はどうしても間違った印象を持たれているのが嫌でね。それをどうにかしたいと考えていたのだけど」

「それで先ほど、強引な解決策を示されたと言うことですか」

「そう言うことだね。出来れば強引な方法は取りたくないのだけど、確かに効果的な方法ではあるのだよね」


 まあ、これに関しては私がとやかくいう物ではない。ただ、この方法を取ると言うことはオルセア皇子が現ベルテンス王国の王になると言うことだから、その辺りは私も気にしていかなければならないと思う。

 オルセア皇子と一応、数日間一緒に居たから多少の評価は出来るけど、王として受け入れられるかと言われれば、まだ何とも言えない程度であるからもう少し皇子の人となりを見て行こう。まあ、私は最終的に決める立場にはいないから、お父様に報告するためにだけどね。




 皇都に着いてから1週間ほどが経過した。私はオルセア皇子が所有する屋敷の一室を借りて生活している。本当は断りたかったのだけど、断ろうとすると皇子は食い下がって来るし、長期間ここに滞在することになると持ってきた物を換金したところで何時まで居られるかわからない。それにここを借りた方が皇子の人となりを確認できるから、と言うことでこの屋敷の一室を借りることになったのだ。デュレンもこの屋敷のどこかを借りているらしいけれど、詳しくは教えてもらえなかったため私は知らない。


 そもそも私と同じくらいの年齢であるオルセア皇子が何で屋敷を持っているのかが疑問だったのだけど、聞くところによるとアルファリム皇国の皇族は基本的に放任主義らしく成人したら1人1つの屋敷が与えられるらしい。まあ、先代の子が使っていたお下がりらしいので、新築が与えられるのは稀だと聞いた。


「おはよう。ミリアさん」

「おはようございます。オルセア皇子」


 まあ、同じ屋敷に居て別々で食事をとることは非効率とのことで、一緒に食事をとることになっているのだけど、どう見ても皇子の私情が入っているでしょうね。一緒に食べるのは他に居ないし。


「今日は何をする予定なのですか?」

「昨日とそう変わらないね。私に振り分けられた政務と指揮している隊の訓練を見るくらいかな。ミリアさんは何をするつもりなのかな」

「まあ、街を見て回るくらいですね。特にやれることが無いので」


 本当にやることが無い。一応皇子の観察はしているけど常にしているわけではないし、出来ない。下手に一緒に行動して変な噂が立つのも良くないから仕方がないことだけど。


「だったら、隊の訓練でも見に来るかい? あそこなら多くの人に見られるってことは無いと思うよ」

「うーん…いえ、止めておきます。確かに人は少ないと思いますけど、軍の中で噂が立つとそれはそれで面倒な気がします」

「あー、まあそうかもしれないね。仕方ないか」


 そうして、食事を追われセルと皇子は一旦自分の執務室の方へ向かって行った。私はとりあえずデュレンを呼んで街に出ることにした。



 ここに向かうまでとここに来てからの期間でオルセア皇子の人となりはそれなりに把握できている。

 性格は穏やかな方。完全におっとりとしたものではないけれど、周りの者が失敗してもあまり怒るような人間ではない。大きなことを決める時の決断は確かに遅いけど、多少のことになれば決断は早い方ね。駄目な物は駄目だときっぱり言うことも出来る。

 執務能力についても悪くはなさそう。少なくとも現ベルテンス王国の王に比べれば結構上だ。碌に政務が出来ないベルテンス王国の王と比べるのは良くないと思うけど。


 結論から言えば悪くは無いけど決定打に欠けると言ったところね。おそらく公爵であれば真っ当な貴族として成り立つと思う。

 けれど、王の器かと聞かれれば悩むところね。まだ、完全に皇子のことを理解している訳ではないから、もう少し様子を見てからになるのかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る