第10話 オルセア皇子と初接触


 集落の中にある基地へ向かう。今更だけど馬車に積んできた荷を下ろして、宿で一旦休憩していたので結構時間が過ぎてしまい既に日が落ちている。果たしてこんな時間に皇子に会うのは普通なのだろうか。まあ、そもそも会う約束なんてものは取り次いでいない中でやって来て、会おうとするよりも大分ましなのだろうけどね。

 基地のエリアに入ると、一旦また検問のようなところに通された。当たり前だけど、危険物とかを持ち込ませないための物なのでしょう。


 しかし、検査は予想外にしっかりされずに目視だけの検問だった。おそらくここまでスムーズに来られている何かが関与しているとは思うのだけど、私にはよくわからない。ミリアの記憶を読んでみても思い当たる物はなさそうなので、本当にわからないのよね。

 あ、もしかして、この御者は何かしらの重要人物だったのかも? それなら色々と納得できるところがあるわね。公爵に指名されるとか予想以上に強いとか、ここに来て何かスムーズに事が進んでいるとかね。


 基地の中の奥に進んで行く。屋根が木材じゃなくて幌で出来ているから最初にキャンプ地とは言ったけど、結構しっかり建物が立てられている。まあ、殆ど同じ形で建てられているからプレハブとかと同じで、簡単に建てたり解体したりできるものだと思うけど。

 何でこんなことを言っているかと言うと、全部同じように建てられているからどの建物の中に皇子が居るのかが判断できないのよね。たぶん先導してくれている兵士が案内してくれるところに居るのだろうけど、どこまで行くのかわからないから心の準備が上手く出来ない。いえ、すぐに会うと仮定して準備はした方が良いわね。


「こちらで皇子がお待ちになっています。失礼の無いように」


 ちょっと待って! 早いって! 準備しようとした瞬間にだなんて、もう少し待って欲しいのだけど!

 私のそんな気持ちは知らず、兵士と御者は間隔を置かずに皇子の居る建物に入って行ってしまった。私も内面を出さない様に付いて行く。


 建物…いや、兵舎の中はかなりすっきりとした感じだ。皇子が居るから謁見の間みたいになっているのかと思ったけれど、どちらかと言うと会議室の方がしっくりくる作りだった。そして、議長席らしき位置に皇子と思われる人物が座っていた。


「ようこそ。ここに来た詳しい理由は聞いていないけど歓迎はするよ」


 ああ、やっぱりこの人がアルファリム皇国の第1皇子であるオルセア・アルファリム皇子なのね。


「アルファリム皇国第1皇子のオルセア・アルファリムだ。何用でここに来られたのかを詳しく聞きたいところだが、それよりもデュレンが生きていたとは驚きだ」

「さて?」


 デュレン is 誰。いやまあ御者のことなのだろうけど、やっぱり重要人物だったのか。しかし、皇子がかなりの美形だ。少し幼い感じだけどたぶんミリアと同じくらいの年齢かな。王国の第2王子と比べても十分上の外見と言うか顔と立ち居振る舞いが良い。

 ゲームでは立ち絵が無かったし名前が出たのも2回だけだったし、その所為で外見が一切わからなかったけど何で皇子の立ち絵作らなかったの? ミリアの立ち絵より皇子の立ち絵作った方が絶対もっと売れたよね? 皇子×王子の薄い本も絶対出ただろうし。どうしてもミリア視点で婚約破棄の場面を描きたかったのだろうけど、明らかに選択ミスよね。


「それで、そちらの方はどのようなご用件でこちらに来たのかな?」


 私がいらない妄想をしている間にも会話が続いていたようで、その流れでこちらに話を振られた。あ、ヤバイ。挨拶とか何も考えていないのだけど、どうしよう。い、いや、とりあえず自己紹介をしている内に考えないと。


「ああ、ごめんなさい」


 私はそう言って時間を稼ぐように大きく間をおいて、まだ被ったままだったフードを取ってコートの中にしまっていた背中の中ほどまである髪をファサァ、と言うかバザァと言った感じで出した。いやうん、何か見た目のインパクトがあるけどコートの中に髪の毛を仕舞っていたら熱がこもっていて不快だったのよね。早く出したかったし、印象付けるには良いかなって思って。


「初めましてオルセア皇子。私、ベルテンス王国のレフォンザム公爵の娘、ミリア・レフォンザムと言います。以後、よしなにお願いしますね」


 自己紹介終わり! さて、次は計画の協力してもらうための打診? いえ、さすがにそれは唐突過ぎるか。

 うん? 何か皇子の様子が変、と言うか表情が固まっている? 何で? 何気に障る事でもしてしまったの? あ、髪の毛バサァはあまり良くなかったのかも。


「皇子?」


 さすがに私の自己紹介に対して何の反応もない皇子におかしいと感じたのか、隣に立っていた秘書と言うか助言役らしき人が声を掛けている。


「あの、大丈夫でしょうか。私、何か無作法な事でもしてしまったのでしょうか」


 ここまで無反応だとかなり不安になって来たので、皇子に問いかける。すると、はっと我に返ったように皇子が反応した。


「あ、ああ、すまない。何でもないよ。しかしベルテンス王国の公爵家令嬢がここになんの用だい? ここがどういう理由で存在しているのか理解しているのかな?」

「ええ、ベルテンス王国へ侵略するため…ですよね?」


 含みもなく直接そう言われると思っていなかったのか、皇子は驚いたように翠色の瞳を大きく見開いていた。

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