第8話 聞いていた以上に御者が強い
男たちは私の下で痛みに悶えている男以外、御者に切られて馬車の周辺に倒れている。うん、血がすごい。というかあの御者、ある程度戦えるとか言って紹介されたけど、どこがある程度なのか。殆ど血も浴びてないのよ? 10人以上切り殺しているのに、しかも馬車に血が掛からない様に意識していながら戦っていたと言うところに驚きを隠せない。
「残りはこいつだけですかな?」
「出て来たのはこいつで最後ね」
御者が声を掛けて来たので、男を踏みつけていた足を退けてから少し距離をとる。すると御者は痛みで蹲っている男の横腹を思い切り蹴り、男の意識を無理やりこちらに向けるようにした。
「うごぐっ!」
蹴られたことでより敵対心が生まれたのか、男はこちらを睨みながらこちらに顔を向けた。
「殺すなら、早くやれよ」
うん、殺しはする。ただ、どうしてここで馬車を襲っていたかを聞いてからだけど。たぶん何の情報も出ないのだろうなぁ。どうせどこかに繋がっていたとしても、トカゲのしっぽとかその辺りの扱いだろうし。
「何故、ここで馬車を襲っていたの?」
「楽して稼ぐために決まってんだろ。早く殺せよ!」
「本当に?」
「ああそうだよ!」
それはあり得ないと思うのだけど。ただでさえベルテンス王国のアルファリム皇国の印象が悪い中でこの道を使う商人なり人は少ないはずだから。
この道は、ベルテンス王国とアルファリム皇国を直接行き来するために作られた1本道だ。今の王国と皇国の関係を考えるとここを使う人がどれだけいるのか。道を進んできた所からわかる通り、この道は荒れている。頻繁にとは言わないけど、ある程度の交通量があれば道上の石や|轍≪わだち≫なんかは無くなっていくもの。それを考えればこの道を使っている人はかなり少ないという事はわかる。
そんな状況で、この道に盗賊みたいのが常駐しているのはおかしな話になるよね。
「嘘はいけないわ。この道ではあまり実入りが少ないでしょう? 誰かに指示されない限りこんなところで馬車を襲ったりはしないはずだわ」
「……さあな」
「そう」
沈黙が答えという事でしょうね。御者に指示を出して男を物陰に連れて行かせる。1分も経たずに戻って来たので男は抵抗しなかったという事か。
「後始末はどうしましょうか」
「物陰に運ぶだけでいいでしょう。その内無くなるわよ」
私がそう言うと端からそうするつもりだったような動きで、御者は男たちの亡骸を道脇の物陰に投げ捨てていた。
「あ、それ終わったら、念のため闘鳥を飛ばしましょう。いえ、少し進んだところからの方が良いかも」
「了解しました」
早々に処理を終えて、私たちはその場を離れて先に進んだ。
ついでに倒木は動かしやすいように内側が空洞になっていて、馬を使えば簡単に動かすことが出来た。こんな手間のかかることをやる位なら、盗賊をやらないで普通に働けばいいのにね。
道が緩やかな坂道になって来た。この坂を上り、山を越えたところにアルファリム皇国の対ベルテンス王国の前線基地があるはずだ。
「少し速度を落として」
「了解」
「ありがとう」
私は闘鳥の首裏を撫でながら、報酬として用意していた餌を渡す。そして闘鳥が持ってきた物を確認する。持っていた物は小さな鳥だった。脚に紙のような物が結んである所から伝書鳩とかの類だろう。
その中を確認してみると、文字と言うには汚い線がいくつも書かれていた。これを書いた人間の字が下手だったのか、こういった暗号文なのかは私にはわからないので他の人に確認してもらわないといけないようだ。
それにこの鳥は大方あの盗賊の出てこなかった奴らが放った物だと思う。そうなると、あの盗賊はやはり誰かに雇われてあそこに居たことになるし、鳥を使って文書のやり取りをするくらい頻繁に確認を取っていることになる。もしかしたら今回は私たちが通る際に別の所から放たれた鳥が元居た場所に戻る途中だった可能性もあるけど、それは確認できないのではっきりとはわからない。まあ、盗賊の男たちの臭いを覚えさせてから闘鳥を飛ばしたから、あれらに関係していることは確実だろうけどね。
確認は済んだので闘鳥を籠に戻し、御者に速度を戻すように指示する。
あ、この取って来てもらった鳥の処理はどうしよう。もう亡くなっているようだし、 自然の摂理で闘鳥にあげる?
とりあえず闘鳥に近づけてみると一切反応しなかった。うん? さっきみたいに食べない。どういうことだろう。下処理していないと食べないのだろうか。いや、もしかしてこの鳥毒持っているとか? もしくは毒が塗ってあるとかなのかもしれない。文書を運ぶ時にこの鳥が襲われないよう何かしらの対策はされているはずだしね。そうなると、私もあまり触るのは良くないかもしれない。
だとしたらどうしよう。さすがに馬車からポイ捨ては可哀そうだし、前線基地についてから考えればいいか。それか御者に聞けばいい気もする。何かしらの対処方法を知っている気がするから。
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