第74話
「翼の手、温かいね」
「陽彩の手が冷たすぎるだけだろ」
「温めてね」
そう言って、陽彩は繋いでいた手に力を入れた。
俺も陽彩の手を握り返す。それが、肯定を示すように。
そのまま、俺たちはイルミネーションをゆっくりと見て回った。そして、このイルミネーションのメイン会場に到着した。
そこは、一際きらめきが強い場所だった。
大きなクリスマスツリー。その頂上には大きな星が燦々と輝いていた。そのツリーの前にはカップルや家族連れがごったがえしていた。
「大きいな……」
俺はそのツリーを見上げて呟いた。
「凄いよね。しかもこのクリスマスツリーのイルミネーションは毎年変わるんだよ」
そう言って陽彩は俺にスマホの写真を見せてきた。
確かに、今年のやつとは違っていた。今年のクリスマスツリーは白色にライトアップされている。陽彩が見せてくれた写真は赤色にライトアップされていた。
渡すならここだよな……。
俺は陽彩の手を放して向き合う形をとると、羽織っていたコートのポケットからクリスマスプレゼントを出した。
「陽彩。メリークリスマス」
「え……」
陽彩は俺が渡したクリスマスプレゼントを両手で受け取った。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
綺麗にラッピングされた小さな箱を陽彩は丁寧に開けた。
中に入っているのは、小さな陽彩色のグラスだ。
「すごい、綺麗……」
陽彩はそのグラスをうっとりするような目で見つめていた。
天に掲げて、クリスマスツリーの光に照らしてみたりクルクルと回してみたりご満悦の様子だった。よかった。喜んでくれてるみたいだな。
「翼、ありがと!」
「どういたしまして」
「あ~あ。先を越されちゃったな~」
そう言って、陽彩はグラスを箱の中にしまって赤色のショルダーバックに入れると代わりに金色のリボンのついた袋を俺に渡してきた。
「翼、メリークリスマス」
「あ、ありがと。開けてもいい?」
「もちろん!」
俺は金色のリボンをゆっくりと解いてプレゼントを取り出した。
陽彩が俺にくれたのは赤色の手袋だった。
「あったかそうだな」
「つけてみて」
陽彩にそう言われて、俺は赤色の手袋を手につけた。もこもこしてて温かかった。
ふと、陽彩の手を見てみると、さっきまでついていなかった手袋が付いていた。
「もしかして」
「そう! お揃い!」
陽彩は赤い手袋のを付けた手で顔の半分を隠した。
どうやら、照れ隠しらしい。陽彩の頬が赤く染まってるのが一瞬だけ見えた。
「そっか。嬉しい」
「よかった!」
でも、俺は片方の手袋を外した。
「え、なんで外しちゃうの?」
「陽彩も片方だけ外して」
「なんで?」
「いいから」
「分かった。けど、理由教えて?」
「だって、手を握ってる方が温かいだろ」
俺はそう言うと、手袋をつけてない陽彩の手を優しく握った。
陽彩の手は温かくて、まるで熱を帯びているようだった。
もちろん、それは俺も同じことで、手を繋いでる間は寒さなんて一切感じなかった。
それから、俺たちは行くりとイルミネーションを見て回り、陽彩を送るために駅まで向かった。
「今日は楽しかった」
「俺も楽しかったよ」
「プレゼントありがとね。大事にするね」
「実は、もう一つあるんだ」
「え、そうなの?」
駅の改札前で俺たちは足を止めた。
俺は背負っていたリュックからバームクーヘンの入った袋を取り出した。
「はい。これ、クリスマスケーキの代わり」
「ありがとっ。これってバームクーヘン?」
「うん。綺麗に焼けてよかった」
「ほんとだ綺麗~」
俺は一つ深呼吸をした。
「陽彩」
「はいっ!」
「これからもたくさんの幸せを一緒に作っていこうな」
「もちろんだよ! いっぱい幸せ作ろうね!」
そう言って、陽彩は俺に抱き着いてきた。
俺はそんな陽彩を優しく受け止めた。
ずっと降り続いていた雪がキラキラと光を帯びているように感じた。それはまるで俺たちを祝福してくれている天からの恵みの光のようだった
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