第2話 クビ

 受付の仕事をしていたところ、マリーさんにギルマスが呼んでいると言われ、私は二階にあるギルマスの部屋に向かいます。


 ミマスの冒険者ギルドは、二階建てで、街の人口から考えれば、少し施設の規模が小さい支部だといえるかもしれません。

 施設の規模に合わせて、職員の数も制限され、その分、職員にかかる負担は大きく、毎日休む暇もありません。

 できれば施設を拡充して、職員を増やしてもらいたいものです。


 特に、受付嬢は、冒険者とギルドの板挟みとなることも多く、大変な仕事です。

 その割に給料が安いのが目下の悩みですが、孤児院出身で、こんな見た目の私では、雇ってもらえているだけ、ありがたいと考えなければいけません。


 ギルマスの部屋に入ると、そこにいたのはギルマスだけではありませんでした。

 ギルマスの他に、サブマス、各部門の責任者の方々。ギルドの幹部が勢揃いです。

 その全員が私の方を見据えています。

 私は身が縮こまる思いです。


「プランタニエ。態々きてもらったのはわかっていると思うが、先日君から報告があった例の件だ」

 重々しい空気の中ギルマスが喋り出します。


 ギルマスのキールさんは、小太りしたおじさんで、鼻の下に髭を生やしています。元Aランク冒険者だったとのことですが、とてもそうは見えません。

 ハッキリ言ってしまえば、今はただの「ちょび髭が生えた豚」です。


 大した仕事もせず、この部屋で寛いでいることがほとんどで、たまに降りてきては、受付嬢のお尻を追いかけています。

 それでも、ギルドの長なので逆らう人はいなかったのですが、半年前に王都のギルド本部から来たサブマスは構わず意見を言っているようです。


 私が三ヶ月前から受付のお金を集計する係になったのは、サブマスの意向があったのではないかと思っています。

 サブマスは、私の黒髪を気にすることがなく、あくまで、実力で人を見ている様子が窺えます。


「君の報告に基づき調査した結果、確かにギルド内で横領などの不正が行われていたことが確認できた」


 私が受付の集計係になってから三ヶ月、私が係になってからは、毎日集計しているのですが、毎日の集計の額が僅かに合いません。


 端数の処理方法が人によってまちまちなので、完全に一致するということはないのですが、それにしては額が多いのです。

 調べてみると、私が係になる前からそうでした。というか、私が係になる前の方が、額が明らかに大きいです。

 誰かが、故意に端数を出して、それをちょろまかしている可能性があります。


 一つ一つの取引を見れば、このくらいなら、という小額でも、件数が集まれば大きな額になります。毎日は些細な額でも、一年間通してみると問題となる額になるのです。


 そもそも、端数の処理方法が人によって違うことが問題で、伝票といえる物の付け方もバラバラです。中にはメモさえ残さない人もいました。

 これが統一され、伝票と帳簿がしっかり記録されるようになれば、不正のしようがありませんし、不正をすれば直ぐにわかるようになるのです。


 そのことをデータも添えてギルマスに報告したのです。


 このギルマスだと、もしかしたら、そのまま握り潰されて、無かったことにされるのではないかと思っていましたが、予想外に、真剣に取り合ってくれて、調査もしていただけたようです。


 人間、見た目じゃないですね。

 私は、ギルマスを少し見誤っていたと反省しました。


「やっぱり。それで犯人は分かりましたか?」

「ああ、犯人はプランタニエ、君だというのが調査の結論だ!」

「え??」


 予想だにしなかったギルマスの言葉に、私は思考が停止して二の句が告げませんでした。


「よって、君はこの場で懲戒免職として、これから警備隊に引き渡す!!」

「え? え?? えーーー!!」


 横領などの不正の可能性を報告した私が、逆に犯人として捕まって、ギルドをクビになることになってしまいました!


「私は犯人じゃありませんーーー!!」

 ギルドに私の声が響き渡ります。

 今の私には、それだけ言うのが精一杯でした。


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