何者でもない者と呪いの首輪

@hacchoume

第1話 衛兵

(ヒュッ、 ガッ !!、シュッ、、ドスッ!!)



薄暗い室内に、使いふるされた木剣や槍が所々に転がっている。

それは既にその役目を終え、誰からも忘れさられたと証明するように木剣や槍には埃が積もっている。

空気は重く、換気するにも、この部屋の換気機能は天井部分についたプロペラが(ギョン、ギョン)と異音にも聞こえる音を鳴らしながらゆっくりと回っているだけで換気できているのか怪しい。


例えるなら3Sが全く行き届いてない、汗と埃が混ざりあった弱小野球部の部室のようだった。


その部屋からは鈍く何かを突くような音が響いている。


その音の主は、鉄の少し尖ったような兜を被り、同じく鉄の防具を身に纏ったパルシファル宮殿に仕えている一人の衛兵だった。

その衛兵は他者との違いを主張するかのように青いスカーフを首に巻いていた。

衛兵の肉体は線は細いが、よく鍛え上げられていてとてもしなやかな体つきをしている。


衛兵が訓練用の槍を持ち、ただひたすらに的にむかって槍を突いていた。


「ヘイッ、ヘイッ、ヘイ!!」


「そんなんじゃ、魔物一匹倒せないゼ」


突如どこからか声が聞こえた。


衛兵が独り言を喋りながら槍を突いているわけではない。かといって訓練所には衛兵以外には誰もいない。


声の主は、木の棒に藁を何重にもグルグル巻きにし、カカシのようなたたずまいをした、そう、巻きワラだ。


「なんだよ、全然腰がはいってないじゃねーか!」

「全身使って突くんだよ!」


「お前センスねぇな」


巻きワラの「野ムラ」が衛兵を無遠慮に煽っている。

それもなぜか野球ノリで。



衛兵の槍を握る手に力が籠り、その感情を表すかのように渾身の一突きを放つ。


「おっ!これならシーラス1匹だな」


「チッ」


衛兵から反射的に自分にしか聴こえないぐらいの舌打ちが漏れた。





「魔物が行商人を襲っているとの報告があった! 手のあいている者は至急、宮殿前に集まれ!」


突如、遠くの方から召集をかける声が聞こえた。


「魔物が行商人を……

すぐに向かわなければ!」



衛兵は手にしていた練習用の槍をそのままに足早に宮殿前へと向かっていった。




「………死ぬんじゃねぇぞ」


衛兵の姿が見えなくなるのを確認し、野ムラがポツリと溢した。






青いスカーフの衛兵が宮殿前に着いたころには、5,6人の衛兵たちが既に待機していた。

衛兵たちからはやる気は感じられず、今から魔物を倒して、行商人を救いにいくなどとは到底思えないような覇気の無さだ。


「…別に今さら俺らいっても無駄じゃね?」


「もう先発隊が討伐してんだろ」


先に待機していた衛兵たちがそんなことを話していた。

どうやら先発隊は既に魔物討伐に向かって、自分たちは不足の事態のために集められた後発部隊らしい。

後発部隊といっても相手の魔物は、きけばマイマイン数体とハマーンが数体で然程手こずる相手ではない。

なのでほぼほぼ後発部隊の出番はない。

しかし行商人が襲われているいじょう、何か不足の事態があってはならない。

意味はないかもしれないが、何かあってはいけないので、

そういって後発部隊は足どり重く魔物討伐へと向かっていった。



「しかし、たかだか数体の魔物にどんだけ人員さいてんだよ」


魔物討伐に向かう途中、一人の衛兵が納得いかないとばかりに道中愚痴を溢している。

男は続けて、


「このあいだに、違うところで魔物が人を襲

ったらどうするきだ?

隊長はちゃんと考えてんのか?」


男の愚痴は止まらない。


「この無駄な移動時間に、訓練でもしてたほ うが自分にも宮殿にもどっちにも有益だろ?」




(こいつは本当にその時間で訓練するのか?)


もっともらしいことは言ってはいるが、多分この男はただ現状が気に食わなくて不満をいっているだけで、こういうやつに限って時間があっても訓練などせず、遊んでいることのほうが多い。宮殿や部隊のことなどたいして考えておらず、自分のことしか考えていない。

そう思い、青いスカーフの衛兵は男の言葉には反応しなかった。


「なぁ、あんたもそう思うだろ?」


「………いや、別に」


「チッ、………ん?!

あんたもしかして………」




男が何かを言いかけたとき、後発部隊は目的地のケルリの道に到着していた。

ケルリの道は色で表すなら紫色だ。その毒々しい雰囲気に加え、所々に霧もかかっている。辺りには花や木も生えているのだが、それぞれが個を主張するかのように、決して他と同じにならないという意思のようなものすら感じられる。魔物が好みそうな場所だ。


そこには既にマイマイン数体とハマーンが討伐され、力尽き倒れていた。

襲われていた行商人もお礼もそこそこに、自分の商品が襲われたときに駄目になってないかと、品質チェックに夢中だった。

あれだけ動けているので怪我はないのだろう。

先発隊もその役目を終え、宮殿に戻る支度をしているところだった。


「ほらみろ!俺らがいくまでもなかったん

だよ!」

「 隊長さーん、俺らも今きたところですけ

どやることないので帰りますかー」


男が嫌味を込めて、隊長に冷たく言葉を投げかけた。


「……そうだな。だが、この辺りにまだ魔物

がいるかもしれない。なので、完全にこの

辺りの安全が確認できるまでは見廻りをし

ていく。」


隊長にそう返され、男は

「了解しましたー。……………ふん。

無駄だったと認めたくないだけだろ!」


男は納得できないとばかりにぼやきながら見廻りに草むらへと消えていった…


男の後ろ姿が草むらに消えていくのを無言で見送り、

どうせここまできたのだ、と、青いスカーフの衛兵も辺りを見て廻ることにする。


「いや、確かハマーンも数体と報告があった

はず……」


しかし倒れていたハマーンは1体だった。

(もしかしたら取り逃がしたか?)

(ならばより警戒は怠れない。)


青いスカーフの衛兵がより警戒を強めて辺りを見廻りをしていると…


「あの、すみません」


青いスカーフの衛兵のまえに現れたのは取り逃がしたハマーンでもなく、愚痴ばかりの嫌味な男でもなく、この場所にはあまりにも不釣り合いな、髪を左右で結んだ、年端のいかない少女が立っていた。


(行商人の娘さんだろうか?)


「どうしたんだい?」

青いスカーフの衛兵が尋ねると、


「ホウちゃんしりませんか?」


「……ホウちゃん?」


「オデコにお月さまの模様があるネコちゃん

なんだけど、さっき魔物に襲われたときに

何処かへいっちゃって………」


少女は目に涙を溜めながら小さく震えている。

「大丈夫だよ。きっとまだこの辺りにいると

思うから、衛兵さんと一緒にホウちゃん捜

そう」

「……うん。衛兵さん、ありがとう!」


(ネコは特徴的だから見つけたらすぐにわかりそうだけど、女の子を連れて一度戻って、あの商品のチェックに必死な父親の元に連れていってもまたネコを捜しに何処かへいってしまうかもしれない。

そうなるくらいなら一緒に連れてったほうがいいか…。)

「あっ、一応確認なんだけど、きみは行商人

の娘さんでいいね?」


「うん。パパと一緒に色々な町にいってる

の」


「そうなんだ。ところできみの名前は?」


「わたしはアイシャよ」


「そうか、よろしくなアイシャ。」


「うん。……衛兵さんのお名前は?」




「助けてくれ〜〜〜!!」

どこからか聞き慣れた声がきこえてきた。

声は次第に大きくなり、その姿を確認することができた。

さっきまでずっと愚痴と嫌味を繰り返していた衛兵が、もし彼女がいたら絶対に見せられない、見せたら一発で引かれるであろう表情で助けを求めている。


「あんたか!よかったっ!助けてくれ!」

「お願いだっ!頼む!!」


見れば四足歩行で狼のようなシルエットはしてはいるが、その体は植物で形成されており、顔は食虫植物のそれ、獲物を食らう鋭い牙を持ち、走る肉食植物のような魔物が嫌味な衛兵を追いかけてきていた。


「……フラゾーイか」

青いスカーフの衛兵は一切動じることなく、フラゾーイの前に立っていた。


「グルルルルッ」

フラゾーイはどこから鳴らしているのか、獣のように鳴き、青いスカーフの衛兵を威嚇し、今にも飛びかかる勢いだった。



それは一瞬の出来事だった。

フラゾーイが青いスカーフの衛兵にむかって

飛び込んだ瞬間、青いスカーフの衛兵の槍がフラゾーイを貫通させていた。

飛んだフラゾーイが地面につく頃にはフラゾーイは息絶えていた。


「衛兵さん、すごーい!!」

アイシャが興奮気味に寄ってくる。


「チッ、俺も武器さえ持っていれば、こんな

魔物瞬殺だったんだが、たまたま武器を持

ってないときに襲われちまったからな」

嫌味な衛兵は先程のことはまるでなかったかのような態度を取っていた。


(本当だろうか?

そもそも武器を持ってないときなんかあるのか?

実はビビって武器落としただけじゃないのか?……まぁどっちでもいいか)


青いスカーフの衛兵は、嫌味な衛兵のことを考えるのをヤメタ。


「ガサッガサッ」

突然、魔物だろうか…、近くの草むらから何かが動く音が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る