62 ともに生きともに死ぬ②
一度強く握り締めた拳をほどいて義一は静かに、しかし揺るがぬ覚悟を秘めた声で友仁に手のひらを差し出した。せつな友仁は探るような眼差しで見上げていたが、しかとうなずいてポケットからおもちゃの指輪を取り出した。手のひらに転がったプラスチックの石がきらりと光る。それを握り込み、今一度友仁と目を合わせた義一は浮遊する羽たちのあとを追いかけた。
肩や胸にぶつかった羽はやはり熱い。この熱を義一は以前にも感じたことがあると思った。
時折こちらをうかがっては足を早める白い背中に語りかける。
「なあ、そんな死に急ぐなよ。しばらくはお前の力であふれた分の瘴気を浄化するだけでもいいだろ」
「それは問題を先伸ばしにするだけです。意味がありません」
「いいや。瘴気電力は今やライフラインを支えてる。それが突然消えたらいろいろ問題が生じるだろうよ。それになにより、もっといっぱい思い出作りができるだろ」
深く息を吸って遠ざかっていく背中をひたと見つめ、義一は胸で届けと願った。
「ふたりだけの」
息を呑む音がして凰和の足がぴたりと止まる。無感情な地蔵たちが待つ桟橋まではもうすぐそこだった。身を縮めかすかにふるふると震える凰和からとめどなく青い羽が生まれている。それらは宙を舞い上がれどけして地面に落ちることはなく、彼女の帯とたわむれるように腰の高さで留まっていた。
ひとつの仮説がひらめいて義一は不恰好に走り出した。痛む右肩をかばう走り方はひどく体が振れて、九本の尾もとんがった耳の先もいっしょにパタパタ揺れた。しかしそれがいっそう義一の背中を押した。彼女も獣憑に変わりないなら同じはずだ。
義一は強張る肩を掴んで振り向かせた。くしゃりと歪んだ目元が愛おしく指先で愛でて微笑む。
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