46 善人面の死神③
足に力を入れて地面を押しやる。情けなく震えるばかりで少しも体を支えられない。義一は届かない両腕の代わりに目ですがった。
「明日も、生きてみなきゃわからねえだろ。なあ凰和」
胸元で両手をぎゅっと握り凰和はうつむいた。
「義一さんのその心、霊力を注いだ時私の中に流れ込んできました。あなたの後悔や葛藤から生まれたやさしさと希望がまぶしくて、うれしかった。私も明日を願っていいのかと思えたんです」
ゆっくりと顔を上げた凰和は笑っていた。眉間にしわが寄り頬は強張り、とても歪な笑みだったがうるんで見える瞳は確かに義一を映していた。
「そんなあなたを好きになりました」
ハッと息を呑む義一の前で凰和は握っていた指をほどき、足元になにかを置いた。それは射的で当てたおもちゃの指輪だった。
「あなたの信じる希望にあふれた明日を、私が連れてきてみせます」
凰和は深く頭を下げると義一に背を向けた。翔があとにつづいて重なり、凰和の姿が義一から隠される。地面を掻いた。爪の間に深く土が入り鈍く痛んだ。使いものにならない足を力いっぱい殴りつけた。
「ちくしょう! 凰和行くんじゃねえ! 話はまだ終わってない!」
もがく義一の横から友仁が飛び出した。友仁は翔を追い抜き凰和の腕を取って引っ張る。
「凰和様! そんなやつらと行かなくても凰和様がお役目を果たせばいいじゃないですか! だってこの人は凰和様を、ぎ、犠牲にするつもりなんでしょ!?」
目で翔を指して友仁は震える声で訴える。友仁を振り返った凰和の横顔は、義一には微笑んでいるように見えた。
「そう。私はお役目を果たしに行くの。元々そういう話だったんだよ」
「え……」
「今まで私を守ってくれてありがとう、友仁」
そっと髪をすいた凰和の手を友仁はわし掴んだ。
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