44 善人面の死神①
義一は友仁の手を借りてやっと身を起こすことができた。頭部の鈍痛、右肩の激痛に加えて全身の倦怠感とこもる熱がひどい。これが本来の自分の状態だと理解した。今までは凰和の霊力で支えられていたに過ぎない。義一は熱でかすむ視界の中、歩み寄ってくる凰和を見上げた。
「この服、ちょっと動きづらいです」
袖をつまんで文句を垂らす姿は、夏祭りで射的を楽しんでいた少女の凰和に違いなかった。友仁が詰めていた息を吐いて笑ったように、義一もまた無意識に張りつめていた糸をゆるめて笑みを浮かべた。
凰和はいつものように義一の胸――獣憑のアザがあるところに触れて容態を確かめた。また霊力を貸してくれたのか、右肩の激痛はやわらいで熱っぽさも引いていく。
だが完全ではなかった。頭の鈍痛と全身のひどい倦怠感はそのままに凰和の手は離れていく。「え」と思わずこぼれた声はかすれて音にならなかった。ただ目をまるくして凝視する義一には気づかず、凰和は友仁を引き寄せて抱き締めた。
「凰和様? どうしたんですか」
友仁は無邪気に声を弾ませくすぐったそうに身をよじる。そこへ砂利を踏む音がした。口元を拭いながら翔が危うげに立ち上がっていた。手をどけた彼女の顔には薄い笑みが浮かんでいる。
「霊獣ノ巫女。本当にこんな力があるなんて」
その声に感じた不穏な響きが義一を突き動かした。義一は凰和の名前を呼び手を伸ばした。しかし寸でのところで凰和は立ち上がり義一と友仁から身を離した。義一の手は指先が白い袖をかすめただけだった。友仁が一変して不安げに凰和を呼ぶ。凰和はまた人形のように硬い微笑みに戻ってさらに二歩、三歩と離れ翔を見た。
「あなたは私を迎えに来たのですね」
「あら。話が早くて助かるわ。もしかして義一センパイに勧誘されてました?」
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