第29話 勇者 佐間久美子

そんなある日


「ちょっと〜信じらんない。これっぽっち? もっと持って来なさいよ。私を誰だと思ってんのよ。私は勇者の佐間久美子様よ。私に貢げるなんて幸せでしょ」


大きな声が通りの店から聞こえて来た。


「もう、これ以上はご勘弁ください」

「は? 何言ってんの? 店の服全部持って来なさいよ。私に貢ぎなさい。ふざけてると殺すわよ」

「ヒ〜ッ、許してください。すいません」

「そんなに言うなら心の広い私が許してあげない事もないわ。ほら……」

「え? いったい……」

「えじゃないわよ。舐めなさい。這いつくばって私の靴を舐めなさいよ。それで今回だけ許してあげるわ」

「そ、それは……」

「ふ〜ん私の靴が汚いから舐めれないの? 汚いから? やっぱり死んどく?」

「わ、わかりました。やります」

「なに? やります?」

「い、いえ、やらせてください」

「ふん! それと私に合う服は全部持っていくから。ダサい服しかないけど我慢してあげるわよ。でも次来た時は、もっとお洒落な服を用意できてなかったら殺すわよ。これはおどしじゃないのよ。私に二度目はないから〜。今までも冗談だと思って用意しなかったバカがいたけどみんな殺してやったのよ。殺すのも汚れるから嫌なんだから、ちゃんと貢いでよね。じゃあね〜」


聞いているだけでムカムカして来たが、猛る気持ちを抑えて女が出てくるのを待った。

店頭を見ていると出て来たのはやたらと派手な衣装を着た女だった。

俺が今まで生きて来た十八年間でこれほどド派手な格好の女性を見たのは初めてだ。

ある意味すごいと思うが、両手に大量の荷物を抱えている。

これがさっき聞こえた貢物。強奪した服か……


「ほんっとしけた店ね〜。他の店にも行ってみようかしら。私にふさわしい服が全然ないじゃない」


もうダメだ。この醜悪な立ち居振る舞い。こいつは朱音達とは全く違う。

やっぱり完全に俺の思い違いだったらしい。

女の勇者がみんないい奴かもしれないというのは全くの間違いだった。

この女はクソだ。どうしようもないクズだ。

人のものを強奪した上に悪態をついている。

恐らく、店内から聞こえた気にくわない人間を殺したと言うのも本当だろう。

こいつを放っておくと被害に合う人が増えてしまう。

泣かなくていい人が泣く事になってしまう。この後違う店の人が被害に遭うのも間違いない。

俺は怒りに心を支配されそうになりながらも、我慢して距離を取りながらついていく。

そうしているうちに女はまた違う店に入り、先ほどとほぼ同じやりとりをして、文句を言いながら出て来た。

「今日はこれ以上持てないわね。また明日にしようかしら〜ほとんど収穫が無かったわね」

ああ……

こいつは、 自分の奪った服を取られた店の人の気持ちなんか考えたこともないんだろう。

許せないな。

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