第395話 松永京は語る
「ううっ、
路上にうずくまり、
「だから今、こうして休憩をとってやっているじゃないか」
「えぇ、えぇ! 本当にその
やけっぱちな調子で語る松永の隣に座り、「あと何分待てばいい?」と尋ねれば、彼は信じられないという表情を向けてくる。
「こんなに弱った部下に、なんてひどいことを」
「でもあなた、ここに来るまでに何もしていないじゃない」
「何もしていないじゃなくて、何も出来る状態ではなかったが正解ですよね! ……わかりました。私、今からきっちり仕事をいたします。新たに来た情報をまとめる必要もありますし!」
鼻息荒く彼はそう語ると、持参していたスマホとノートPCを里希へと掲げてくる。
「だからもう少しここに留まります、よろしいですね!」
「あ、あぁ。……わかった」
珍しく反抗的な態度の部下の勢いに押され、思わずうなずいてしまう。
「
画面から目を逸らすことなく、彼の指がキーボードの上をせわしなく動く。
やがて「ふむ」と小さく呟くと、松永は里希へと視線を合わせてきた。
「とはいえ、主を待たせるなど部下としてあるまじき行為。ですので本部で尋ねられた内容を今、お答えしておきましょうか。あぁ、もちろん情報確認は並行して行いますのでご心配なく」
再び画面へと視線を戻し、彼は言葉を続ける。
「なぜ私が、
話をしながらも、彼の指は止まることはない。
「ここ最近、主に
「ん? その言い方だと発動者ではなく、事務方だけということになるようだが」
「えぇ、その通りです。一条、四条の人間が自宅待機になる
把握をしていなかったという後ろめたさから、つい強めの口調で里希は問うてしまう。
「それで? お前は、その行方不明事件と今回の件が繋がっていると言いたいのか? そいつらも、
「いいえ、そうは思えません」
松永は首を横へと振る。
「いなくなっている職員は、全て発動者ではない一般の事務方のみ。しかもほとんどが、自己顕示欲や出世欲が強い者であると把握しております」
「……ふぅん。それはつまり、彼らは
どれだけ優れていようとも、発動の力を持たぬ事務方は、白日内においては立場が低い。
我が強い事務方であれば、この状況に不満を抱えている者も多いはず。
そんな彼らが、現状を変えようと
思考のさなか、目の前の男もその可能性があることに気づき、里希は問いかける。
「それなりに才がありながら、異能を持たぬがゆえに事務方に甘んじる。あなたもそれに該当しそうだが、誘いはなかったの?」
松永の指がふいに止まると、彼は顔をうつむかせていく。
「一度もなかったですね。そもそも私、出世欲もありませんし」
言葉をとぎらせ、表情を見せない姿は気落ちしたように映る。
この男が傷つくようなことを、言っただろうか。
そう考える里希へ、松永はがばりと頭を上げると、満面の笑みで顔を近づけてきた。
「何より私、里希様に夢中なので、誘われてもついていきませんよ! ところで、さっきの言葉ですが、私のことを才があるって言ってくれましたよね! 里希様に褒めてもらえるなんて一体、どれくらいぶりでぶぎゅぅ」
手のひらで松永の顔を押し返しながら、里希は淡々と告げる。
「僕が聞いているのは、お前のことではなく、監禁場所を見つけた経緯だ」
里希の返答に、松永は不満そうな表情を浮かべながらも、後ろに下がり話を続けていく。
「私も、彼らは自分の意思で姿を消したのだと判断しました。『何か面白い情報が見つかれば』。当時はそんな軽い気持ちで調べはじめたのですが」
松永は顔を曇らせる。
「調査を進めていく内に、事務方達がいなくなる直前に共通して接触していた男を見つけました。さらにその人物が、『よろしくない』人材派遣を行っている者であること。同時期にその男が、組織とは関係ない一般人に対し、
「その施設が、品子先輩が捕まっている場所であると」
「はい、その通りです」
「派遣の内容は?」
「その施設の周辺の警備ですね。あくまで表面的にはですが」
松永は指を二本、立ててみせる。
「本人に提示されることはありませんが、派遣される際の条件は二つ。身元不明になっても困らない者、金に
「どう考えても、使い捨てのために集められている人選じゃないか」
あきれた様子で語る里希に、松永は苦笑いで答えてくる。
「
「選別だと?」
「はい。体力があり従順と判断されたものは、施設の内部の警備を任されるそうです。外の警備よりも、さらに支払いがいいということで、選ばれた者達は喜んで請け負うそうですよ」
「随分と詳しいけど、あなたの情報網って一体どうなってんの?」
二条ですら、ここまでの詳細を調査できていなかっただろう。
彼一人で、よくぞここまで情報を集められたものだ。
「いや~、私ってば友達が多いんですよ。今回はそのうちの一人にかなり無理をさせて、ここまで調べてもらいました。ですが情報はここまでですね」
「何? そのご友人は死んだってこと?」
「里希様っては過激~。冗談でもそんなこと言わないでくださいよ」
困り顔だった松永は、すっと真剣な表情へと変わっていく。
「そうなりそうだと判断をして、その子には手を引かせました」
「……ふぅん」
何気ない言葉に、どうしたことか生まれたのは不快感。
「そんな言い方をするってことは、まさか小さな子供なの?」
「いえいえ、もう大学生ですよ。幼い頃から面倒を見ているので、ついそんな呼び方をしてしまいましたが」
『その子』を思い浮かべているのだろうか。
小さく笑う彼に、再び芽生える感情を里希はこらえる。
「あれ? その表情、ひょっとしてやきもち焼いています? 大丈夫ですよ、里希様。相手は男の子ですからって、おっとぉ!」
発動を込めた指先を振りぬけば、松永は素早く体を伏せて避ける。
両手を上げ、降参のポーズをしながら体を起こすも、口元をむずむずとさせている態度はどうも気に入らない。
「さて、話を戻すとしましょうか。施設に入っていった者は、やはりといいますかそれ以来、姿を見なくなるようです。これらの情報から、私は一つの推測をいたしました」
松永の表情が険しいものへと変わっていく。
「犯人は
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