2章-6
ギルドを出た後、再びユレーナの実家に行った。
俺は薬草畑の手入れがあるし、ユレーナは明日からの旅の準備がある。
買い出しはイレーナさんがしてくれているらしい。
俺のためでもあるんだし、ちゃんとお礼言っとこう。
さっきはハンターギルドの事で頭が一杯だったので気付かなかったが、実家の周りの土地に資材が置かれ、建築工事が始まっていた。
若旦那がまた変なことをやってこなきゃいいけど…
「お邪魔します。イレーナさん、今回も買い出ししていただいてありがとうございます。旅の準備なんて分からないので大助かりです。」
「いいんですよヨウさん、そんな他人行儀な。ユレーナがお世話になっているんですから当然ですよ。」
ああ、優しい。癒やしの一時だなぁ。
外見はユレーナと殆ど同じなのに、安心感が全然違うんだよなぁ。
きっとユレーナの場合、あの魔法に対する反応のせいだろうな。
挨拶を終えるとオレは薬草畑に直行した。
アグーラさんは今も精製中みたいだから、またあとで挨拶しよう。
薬草畑に着くと、ひとつ深呼吸。
「うん、元気な植物の匂い!」
よしよし、と一株一株愛でてゆく。
当初見たことのない薬草も、今では当たり前に見る事ができる。
最初は大興奮して奇声を発したり、大声をだしたりとかなり迷惑をかけてしまった。
なんか、ユレーナの反応と似てるかなとちらっとだけ思った。
ちなみに見たことのない薬草と言うのはこの世界オリジナルの草で、その一つがポーション化するために必要なレージュ草である。
なんでも水分量が多いわりに、水みたいに薄まらないらしい。
これがないとポーションが出来ないので、薬草畑の1/3はこのレージュ草だ。
「アロエ軟膏はイマイチ、ドクダミ茶もイマイチ、俺役に立ててないなぁ」
ポーション以外でも目玉商品を!と意気込んで作っては見たものの、最初こそ物珍しさで売れたが、ポーションの質が上がっていくにつれパッタリ売れなくなり完全にお蔵入りになってしまった。
ポーション化しないと効果が上がらないのは謎だ。
異世界の不可思議現象に負けたんだ、悔いはない。
薬草達を愛でた後、アグーラさんの手が空いたので挨拶する事に。
アグーラさんは出会った頃に比べると別人のように元気になった。
間違いなく過労だと思う。
俺が薬草畑を管理することで、下準備まで完全に手が放れたので余裕ができたのだろう。
もちろん俺がいないときはイレーナさんが代わりにできるようしっかり教えた。
イレーナさんは吸収が早く、もう殆ど俺と同じレベルで下準備までできる。
「ポーションの出来はどうですか?前と変わらず?」
「そうですね、効果が高止まりしているような感じがします。さすがに魔法ポーションを凌ぐほどにはならなかったけど、それでもこの効果は目を見張るものがあります。実はギルドにも話を通しましてね、近々大口で買ってもらえることになりました。」
「おお!やりましたね!アグーラさん!」
「ほんとヨウさんのおかげだよ、感謝してもし足りないくらいだ。」
そう言ってアグーラさんはにっこりと微笑む。
おじさんなのにいい顔するなー、俺ももっとニヒルになりたいぜ。
とにかく順調そうで何より。
それはそうと来る時に見た光景を思い出し、一応聞いておく。
「あの、地上げの件はどうなりましたか?」
「妨害は無くなりましたが…周りの土地で工事が始まっているのを見ましたか?若旦那の商会、チェロキー商会というんですが、どうも魔法ポーションを大量生産するらしいんですよ。」
「魔法ポーションがどう影響するか、ですか。」
「そうなんです。それに流石に周りを囲むように店が出来ちゃうと商売がやりにくくなるでしょう」
いい話もあれば悪い話もある、か。
でも魔法ポーションって魔導具ないと作れないのに量産なんか出来るのかな?
燃料代もバカにならないだろうし、そんなに儲けが出るように思えないけど…
ま、相手は商売のプロなんだし、勝算あっての事だろう。
こちらは地道にやるしかない。
用事が終わったので、帰還魔法でシルの所へ帰ることにした。
なぜかユレーナがすぐ近くにいる。
付いて来るつもりかと思ったが、魔法を間近で見たいだけらしい。
気にしたら負けだと思った。
「ただいまー。」
「おかえり、ヨウ。ご飯出来てるよー」
「ありがとう、早速食べよう!」
それから今日あった事を話ながら食事をした。
王都の拠点の話も賛成してくれたし、とりあえず計画通りで良さそうだ。
食事の後はいつものトレーニングを行う。
シルの教え方がいいのか俺のセンスがいいのか、マナ制御の精度はずいぶん上がっている。
トレーニングを兼ねて、王都への道すがら、魔物を積極的に狩ってもいいかもしれない。
前に言ってた、シルに魔石をプレゼントするためにも。
次の日、薬草畑に跳んだ後、マナ回復待ちの間に朝食をご馳走になった。
相変わらずイレーナさんのご飯は美味しい。
いや、シルのも美味しいんだよ、本当に。
食事の後は今後の予定を話して、ユレーナと二人、ロイスへ跳ぶことにする。
ロイスの拠点に着いたら、リリアしかいなかった。
みんな早速仕事を探しに出掛けたようだ。
うんうん、いい流れだ。
リリアはこれから出るところだったらしく、行ってきますのハグをせがんでくる。
まだ小さいので、抵抗はない。
ハグをしながら、そういえばこの子達がここにいる理由知らないな、と思った。
親と死別したか捨てられたか、どっちにしてもここにこうして居る以上、不幸が重なったのだろう。
もしかしたら甘えることさえ知らない小さい頃に。
あまりしゃべらないリリアは少し長めのバグで顔をグリグリすり付けた後、元気に街に繰り出していった。
俺達もグズグズしていられない。
来たときとは逆の北門から抜けて王都を目指す。
計画通り馬車は使わず、徒歩である。
街道から離れて、魔物を倒しながら行くことは、今朝話してOKを貰っている。
さすがユレーナ、武闘派だね。
門から出てしばらくは街道を歩いた。
街道の様子を見たかったのと、街道から離れるのを門番に見られたくなかったからだ。
怪しいよね、老人と若い娘が門を出ていきなり林に分け入って行ったら。
街道にはやはり商隊が多い。
馬車がすれ違えるくらい道が広く作られているので、スピードもかなり出るようだ。
ちなみに徒歩の旅人は皆無。
そりゃそうだ、この道は王都に続いているが、歩いたら10日かかる距離なのだ。
馬車だと3日程で着くそうなので、普通は馬車を選ぶ。
横を通る御者さんはちらりと此方を見るが、あまり気にしていない様子だった。
馬車に乗るお金もない老人に見えたのだろうか。
一通り馬車をやり過ごして、人気が無くなったところで街道から外れ、林へ入っていく。
街道から離れると、高い木のせいだろう辺りが少し薄暗く感じる。
気候がほとんど変わらないので、生えている植物もキールと変わらない。
王都周辺まで行けば少しは変わってくれるだろうか。
今回の旅は魔物を倒す目的もあるので、遠回りになるが森の方まで足を伸ばすことにする。
ユレーナも何度か来たことがあるくらいで、そこまで地理に明るくはないが、魔物に遭遇するにはそれなりに森の奥へ行かないとダメらしい。
魔物は日の光を嫌うらしく、日中は街道など人の領域には滅多に出てこない。
前に出会ったウッドマンはかなりレアなケースだったようだ。
森に入ったところで、光を頼りに深く入りすぎないよう注意しながら歩いてゆく。
さすがに森というだけあって木が多く、根もしっかりしており歩きづらい。
ペースを落として怪我の無いように、ユレーナが辺りを警戒しながら前を歩く。
が、その日は結局魔物に出会うことはなかった。
夜は街道近くまで戻り、野宿だ。
食事メニューもいつも通りハンバーガーもどき。
もちろん野草を炙って野菜を摂ることも忘れない。
そういえば四季があるのか聞いてなかった。
冬があったらこれ凍え死ぬな…
今は暖かいから逆に夜の涼しさが心地いいんだけど。
次の日はもう少し森の深い所まで行くことにした。
ワクワクしたけど、やはり植生は変わらない。 すると早速ユレーナが警戒を強くする。
遠くで狼だろうか遠吠えが聞こえた。
だんだん雰囲気がピリピリしてくるのが肌で感じ取れる。
「ヨウ様、準備はよろしいですか?そろそろ来ます。」
「う、うん。心の準備はできてる!」
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