1章-8

「薬草畑に落とし物をした気がしまして、気がついたら薬草畑にいました。いやはや年は取りたくないものですな、よく覚えておりません」


かなり無理のある言い訳だが、年のせいにしてしまえば追及しにくいだろう。

他に名案が思い浮かばなかったんだよ!

お願い、見逃して!


「はぁ、そんなものですか。お恥ずかしい所をお見せしましたが、とにかく先程は助かりました。ありがとうございました。」


「ありがとうございました。」


二人に揃って頭をさげられた。

ここまで人に感謝されたことがないからなんだか照れるね。

少し焦りながら頭をあげさせ、先程の男の事を聞いてみる。

やはり男は地上げ屋の手先で、脅迫まがいの事をして無理やりこの一帯の土地を買い占めようとしているらしい。

話に出てきた若旦那というのが、この街の大商会会頭の息子でポーション部門を手掛けているのだが、独り立ちするために大きい店を構えようと土地を確保する傍ら、商売敵になる邪魔なポーション屋を潰して回っているようだ。

相手が大商会なだけに資金力もあるし、下手に逆らえばこの街で商売するのもおぼつかなくなる為、周りの人は泣く泣く家や店を手放しているということだ。

しかしこの店だけはなかなか首を縦に振らないので、さっきのように強硬手段にでたと。


聞けば聞くほど我が儘で勝手な悪党というイメージができあがる。

イレーナさんに手を出そうとしたのも許せない。別に邪な気持ちはないぞ。


よそ者の俺が首を突っ込むのもどうかと思うが、それでもこの店を守ってあげたい。

売り上げをあげ、街に必要な店として認識される。世間の注目を集めるんだ。

そうすれば簡単に手出しできなくなるだろう。

力で何とか出来るとは思えないしね。


とにかく今日はもう帰ろう。

さすがに疲れた。

二人にまた明日来ることを告げ、店を出る。

そのまま街の外へ直行する。


「シル、もう帰還魔法使えるよね?」


「ええ、大丈夫。それにしてもヨウ、さっきは頑張ってたわね。まったく美人に弱いんだから。」


「そういうんじゃないよ!ただ、こう、なんとかしなきゃって思っちゃったんだ。たまたまキッカケがイレーナさんだったってだけで…」


もごもごしながらも帰還魔法のイメージを整える。

次やっちゃったらシャレにならない。

ちゃんとやろう。


「じゃあシル、いい?帰るよ?」


「オッケー!いつでもいいわ!」


「リターン!」


やっぱり発動の瞬間は眩しくて目を瞑ってしまう。

目を開けばちゃんと家にいた。

よかった。

今日はほんとに疲れた。

もう寝よう。


「シル、ごめん。今日は疲れちゃったからもう休むよ」


そう言ってベッドに倒れ込み、泥のように眠った。

疲れはもちろんだけど、魔法をたくさん使ったせいかもしれない。


まだこの世界に来て二日だ。

なのにこんなに色んな事が起こる。

明日からは大好きな植物と戯れるけど、平凡な日々であることを期待しよう。



翌日、シルに起こされた。もうお昼前だって。

いかん、初日から遅刻じゃないか!

慌てて飛び起き身なりを整える。

よし、疲れは残っていない。昨日貰ったポーションのおかげかな?


「ヨウは今日からあのポーション屋に通うんでしょ?面倒だしやりたいことがあるからあたしは家にいたいんだけど、道は大丈夫?」


「一本道だし迷うことはないよ。でもできたら行きも帰りも帰還魔法がいいんだけど…」


「魔法は基本禁止よ。バレたらほんとに捕まっちゃうんだから。でもまだその体に慣れてないだろうし、帰りだけは使ってもいいわ。ただし!昨日みたいに見つからない場所に行ってちゃんと人が居ないことを確認してからね!絶対!」


やった!許可がでた!

帰りだけでもありがたいね。

そうと決まれば早く行かなきゃ!

薬草畑の土を改良したいから枯れ葉とか家の周りの土を少し持って行きたかったんだよね。

いわゆる腐葉土を作ろうと思って。

家にあった袋を適当に見繕って急いで準備を済ませる。


「いってきまーす!」


「気を付けてね!それと口調!ちゃんとおじいちゃんっぽくしないと変に疑われるわよ!」


確かに。おじいちゃん口調にするのすっかり忘れてたわ…ゆっくり話すだけでもそれっぽく聞こえるからって言われて気を付けたつもりだったけど、よく考えたら全然出来てないな。

今日から気を付けよっと。


まずは家の周りで土の採取。

ついでに落ち葉も拾っておく。

出来ればミミズとかいればいいけど、贅沢は言ってられない。

しばらく通う予定だし、毎日少しずつ土を運び込めば少しは薬草畑の土壌も変わるだろう。


町への道のりの最中、人が居ないのを見計らってこっそり疲労回復魔法を使う。

やっぱり体が光っちゃうんだよね。

正確に言うと体を覆っているマナが光ってるんだけど、ここまで光ったら隠しようがない。

もっと練習すればもしかしたら光らなくなったりするんだろうか?

帰ったらシルに聞いてみよう、って昨日聞きたいこと聞けなかったしどんどん聞きたいことが貯まっていっちゃうな…

どこかで時間を取ってまた授業してもらおう。


今日も街道にはほとんど人通りがない。

魔法を使うには都合がいいけど、なにか寂しいものがある。

街が栄えていない訳じゃないだけに不思議だ。

そんな事を考えながらひたすら歩いてお日様が中天を越えてしばらくして街に着いた。

そして気付いた。

俺この街の名前も知らないや…

あとでぼけた振りしてアグーラさんに聞こう。


あ、門番にはやっぱりスルーされた。

できれば挨拶くらいはしたいな。

明日からは恥ずかしがらずに声掛けしてみよう!


ポーション屋を前にして息を整える。

おじいちゃん口調を忘れるな。

自分に言い聞かせドアを開く。

大丈夫、押すと引くは間違えなかった。


「こんにちは!」


「あら!ヨウさん、こんにちは!お昼過ぎても来られないから体の具合が良くないのか心配してたんです!さぁこちらへ。」


イレーナさん優しい!

心配かけちゃってたんだね、ごめん。グースカ寝てました…

早速連れて行かれたのはダイニングだった。

アグーラさんも今か今かと待っていたみたいで、並んだ食事に手を付けず、俺の顔を見るなり相好を崩した。


「やぁお待ちしていました。さぁさぁまずは食事にしませんか?今日はヨウさんと食べる初めての食事ですから、イレーナも張り切ったようですよ!」


言われてみればテーブルの上にはパンやサラダがある他、シチューの様なものや、焼き魚もあった。

本当に楽しみにしてくれていたのが分かる。

赤の他人の俺になんて優しい…

俺頑張るよ!絶対いい仕事してこの店を有名にするんだ!

地上げ屋なんかに負けるものか!!


皆で食べる昼食は楽しくて美味しくて最高だった。

薬草畑については、しばらくは任せてもらえることになり、手が足りなければイレーナさんにも手伝ってもらえるそうだ。

昨日の一件があり、今朝から二人で相談して決めたらしい。


食事の後、さっそく俺は作業に取りかかる。

まずは持ってきた土を畑全体に撒いていく。

うん、全然足りない。知ってた。

少しずつ持ってくるつもりだから!

なにせ非力なのよ、この体…

あとは畑の隅に穴を掘り、拾ってきた落ち葉に、イレーナさんからもらった油かすや野菜のヘタ、最後に水を少々入れて再び埋める。

これも場所を変えて少しずつ作っていこう。


次にこの畑に生えている薬草の種類の把握。

なにが生えているのか知らなきゃレシピも浮かばないしね!

ざっと見た感じ2~30種類くらいはあるかな。

いくつか知らない薬草もあるけど、ほとんどは元の世界で見たことのあるものだ。

効能もおそらく同じだろうから、基本天日干しで乾燥させて生薬にして組み合わせていく事になるだろう。

さぁ忙しくなるぞ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る