第24話 悪友の思い
テーマパークに足を踏み入れた時よりも親しげに話している前の二人を見て、大森は満足げにふっと息を吐き出した。
今回の目的はもちろんヘタレな友人と、そんな彼の家政婦をしているというクールビューティーでミステリアスなクラスメイトの仲を取り持つということだったが、大森としてはもう一つ目的があった。
まあ優奈のやつも康介と仲良くなれたみたいだな……
目の前でじゃれ合っている二人を見て大森は一人そんなことを思う。
大森にとって幼い時から繋がりのある西川と、そして中学時代に出会って恩人として大きな借りがある筒乃宮はどちらも特別な人間だ。
ゆえに彼としてはそんな二人には友人同士として是非とも仲良くなってほしいと前々から思っていたのだ。
ただ学校では学年の上位カーストグループの中心メンバーである西川と、日陰暮らしが好きな友人とではあまりにも住む世界が違うため、そういった機会をなかなか作り出すことができなかった。
なので今回のダブルデートでは友人の恋路を進めつつ、あの二人の仲も深めるという狙いがあったのだ。そしてーー
「川波さんも今日は楽しめたかい?」
「え?」
大森は自分の隣を歩く清楚な女の子に声を掛ける。彼女も前を歩く二人を見つめていたようで、その大きな猫目がくるりと彼の顔を見上げる。
「……そうですね」
本心なのかそうでないのか、その声音と表情からではわからない。だからといって彼女が機嫌が悪いとかそういうわけではなく、これがいつも通りだ。
そのことを理解している大森は素っ気ない川波の態度を気にすることもなく言葉を続ける。
「それなら良かったよ。康介のやつも、そこを一番気にしてるだろうし」
「筒乃宮様がですか?」
大森の言葉に、川波は少し意外そうに目を見開く。そんな彼女の僅かな変化を見て、大森は自分の言葉が『当たり』だったと内心でニヤリと笑む。
普段クールで感情の起伏がほとんどない彼女だが、筒乃宮の話しとなるとその限りではないことを大森は知っていた。
そしてそれが家政婦としての立場からなのか、それとももしかしたら別の感情からくるものなのかということを自分は見定める必要がある。
友の恋路を応援する者として大森はそんなことを思うと、何食わぬ顔して話しを続ける。
「そりゃまあアイツは気になるだろうよ。なんたって川波さんと遊びに行けるのをずっと楽しみにしてたぐらいだし」
「……」
大森の話しをどう受け取ったのか、川波はその言葉を聞いて黙り込む。そして再び視線を前方へと向ける。
「筒乃宮様……楽しそうですね」
「え?」
不意に言葉が返ってきて、今度は大森が彼女の顔を見た。
その視線の先にいるのは、夕暮れ空の下で親しげにじゃれ合っている二人の姿。
そんな光景を見て感想を漏らしただけの彼女の言葉なのだが、この時大森はふと胸の奥に引っかかりのようなものを覚えた。
おそらくそれは西川から親しげにあだ名で呼ばれて恥ずかしがっている筒乃宮を見る川波の瞳が、どこか寂しげに見えたからなのかもしれない。
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