【第十四話】魔法医師 ③

「『魔法医師』……だと?」



恭司は半信半疑に問い返す。


ふと、ドラルスまでの道中でスパイルが言っていたことを思い出した。



【ドラルスにはな、『魔法医士』っていうすげぇ医者がいるみたいなんだ】



詳しく聞いても"女"という情報しか出てこないような噂レベルの話だったが、仮にその魔法医師だとすれば、スパイル曰く、使えるはずだ。


そう、


『魔法』をーー。



「俄かには信じがたいって……そんな顔してるわね。まぁ、無理もないけど」


「…………」



女性……『ウィクシル・ディーブラス』はそう言うと、恭司の方をジッと見つめてきた。


その視線はやけに優しく、どういうわけか、"期待感"を持っているように思える。


それが何に対するものなのかは分からないし、そもそも合っているのかさえ不明だったが、何となくそう感じたのだ。


恭司はそれを不審に思いながらも、警戒体制を取り続ける。


ウィクシルから放たれる異様な気配はまだ止んでない。


警戒に越したことはなかった。



「で……俺たちはたまたま……何の理由もなく、その御高名な先生の所に来ちまったってわけか?」



そこで、


スパイルはとりあえず話を進めるべく、ウィクシルに問い掛けた。


その声には疑心がふんだんに詰め込まれている。


この店を選んだ時、恭司の様子は少しおかしかった。


他にも色々と選択肢もあった中、恭司は即決でこの何でもない店を選び、蓋を開けてみれば、それが『魔法医師』の店だったというのだ。


『魔法』というファンタジーな要素を鑑みても、偶然というにはあまりに出来すぎている。


警戒するのはむしろ当然と言えた。



「ふふ、少し誘導させてもらったわ。私の店は特別製でね……誰でも来れるわけじゃないの。普通の人には見れていても認識できないし、来てほしい人にはむしろ魅力的に見えるようにしているのよ」


「……『魔法』って奴か」


「そうよ」



ウィクシルは存外ペラペラと答えてきた。


隠す必要がないのか、それとも何か意図があるのか、疑心はますます強まっている。


次は恭司が問い掛けた。



「俺たちに来て欲しかったという理由は何だ?」



さっきの話だと、ウィクシルは自ら2人をここに呼んだということになる。


普通の人には認識できないこの店に、わざわざ魅力的に見えるよう、2人は選ばれたということなのだ。


さっきの恭司に対する視線とも関係しているかもしれない。


恭司は警戒を崩すことなく、慎重に対処することにした。



「それについては……正直"興味本位"ね。なんせ……今のアナタたちは、この世で一番"ホットな人たち"だもの」


「…………?どういうことだ?」



そこで、ウィクシルはニヤリと笑った。


妖艶で不気味な雰囲気が店中を覆い、ネットリとした空気が漂う。


仄かに立ち込める緊張感ーー。


ウィクシルは、


ゆっくりと口を開くと、


言葉を紡いだ。



「ミッドカオスとディオラスが、手を組んだわ」

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